業務の一部をクラウド化したり、大規模なクラウドコンピューティングで業務の多くをクラウド化したりと、ビジネスの現場では規模の大小を問わずクラウド化が進んでいます。クラウドサービスは利便性が高く手軽に導入できる点が大きなメリットです。
しかし、クラウド化によって解決できる企業の課題が多くある一方で、導入の仕方・運用の仕方によっては、「クラウド導入によって生まれる新たな課題」も問題となっています。この記事では、クラウド導入で解決できる課題や導入後の注意点を中心に解説します。
クラウドサービス導入で解決できる課題とは
総務省の情報通信白書によると、企業におけるクラウドサービスの利用状況は年々増えており、2022年時点で「全社的にクラウドを利用している」が約45%、「一部の事業所または部門でクラウドを利用している」が約27%で、合わせて約72%もの企業がクラウドサービスを導入しています。また、クラウドサービス利用の効果としては、「ある程度効果があった」は約55%で半数を超え、「非常に効果があった」も約33%を超えている状況です。
従来、使用されているオンプレミスのシステムには、大きく2つの課題があります。
- システム構築に時間がかかる
- 初期費用、運用費用がかかる
オンプレミスは自社内に資産となる装置・機器類を設置するシステムで、サーバーや端末の設置場所を確保できることが前提です。オンプレミスの導入では、まずシステム構成の設計や機種選定を行います。最速で1日あれば決められるというケースもあるかもしれませんが、通常はそれなりに時間がかかる作業です。機器の設置調整工事に加え、電源や通信用の配線工事も必要になります。
導入が決まれば、工事やテストを含めたスケジュール調整が必要です。工事内容によっては数日かかったり、通常業務をストップしたりする必要があります。このように、オンプレミスのシステム構築をしようと思えば、時間がかかってしまう点が大きな課題です。
さらに、オンプレミスでは装置・機器類の代金や工事費用などの小さくない初期費用がかかります。リースで利用することもできますが、毎月のランニングコストとしてリース料が必要です。また、システムの運用にも費用がかかります。運用費用にはほぼ毎月定額でかかるものと、修理対応などイレギュラーなものがあり、初期費用と運用費用を合わせると結構な額になってしまう点が、大きな課題となっています。
この大きな課題の解決に役立つのがクラウドサービスであり、多くの企業が導入している主な理由だといえるでしょう。しかし、クラウドサービスで解決できる課題はそれだけではありません。以下で個別に解説します。
システム構築が迅速、拡張が容易になる
クラウドサービスを利用すると、迅速にシステム構築ができるだけでなく、拡張も容易になり、スピーディなシステム導入が可能です。クラウドサービスはオンプレミスのシステム構築とは異なり、自社でハードウェアを用意・設置する必要がありません。クラウド上でベンダーが提供するシステムを利用するだけで構築をスタートできます。
同様に、拡張が必要になった場合でもオプションを追加したり、サービスプランの変更をしたりすることで、容易に実用化できます。従量課金制の契約では、少なくとも一定の範囲なら容量アップも自動で可能です。
初期費用、運用費用が削減できる
クラウドサービスなら、システム導入にあたって必要となる初期費用や運用費用を削減するという課題の解決に役立ちます。クラウド上に構築されたシステムを借りて利用するクラウドサービスでは、導入にあたっての初期費用を大幅に抑えられます。装置・機器の代金や設置構成工事費がかからないためです。
クラウドサービスの契約料金に初期費用がない場合は、0円での導入も可能です。また、装置・機器を維持管理する必要がないため、維持管理とそのための担当者の人件費が不要で、トータルの運用費用を削減できます。クラウドサービスの利用代金は月額制が多く、主に月額固定料金、基本料金+従量制料金、従量制料金の3種類の料金体系になっており、基本的に意図しない費用がかかることはありません。
可用性の向上
クラウドサービスは可用性の向上という課題にも対応しています。システムのアップデートやバージョンアップ、バックアップ、セキュリティ対策はベンダーが行うため常に最新の状態が保たれており、限られたリソースでサーバーの自社運用を行うよりも可用性が高く安心です。
利便性の向上
クラウドサービスがオンプレミスのシステムと決定的に異なる点として、利用場所を選ばない利便性の高さも忘れてはならないでしょう。インターネット接続が可能な場所でPCやスマホなどの接続端末を使えば、どこにいても、いつ誰でも権限さえ持っていれば利用可能です。様々な業界で広がりを見せているリモートワークやワークライフバランスを重視した職場にも向いています。
BCP対策・DR対策としても有効
クラウドサービスを利用することで、BCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)対策やDR(Disaster Recorvery:災害復旧)対策が前進します。オンプレミスのシステムは、自社が地震などの自然災害で被災したり、事件や事故に巻き込まれたりした際に、設備の破壊やデータの消失などで事業の継続が困難になる可能性があります。クラウドサービスなら、自社とは離れた場所にベンダーの拠点があるだけでなく、複数の拠点とバックアップでいざというときに備えているため、業務の復旧が迅速で、事業の継続性確保に役立ちます。
DR対策については、以下の記事で詳しく解説しております。ぜひご参考にしてください。
▼企業の事業継続性、信頼性にもつながる「DR対策」をあらためて解説
クラウド導入後に注意すべき課題とは
様々な課題解決が期待できるクラウドですが、その性質から導入後に注意すべきリスク、課題があります。以下で4点解説します。
セキュリティの担保に関して不安が残る
クラウドサービスでは、通常ベンダーによる最新のセキュリティ対策が施されています。その意味ではオンプレミスのシステムを構築するよりも有利といえるものの、クラウドはインターネット上で利用するため、情報を社内に閉じ込めておくことができません。サイバー攻撃などを受け、インターネットを経由して世界中に情報が漏えいする可能性があるという不安が残ります。
改修コスト・通信コストが増加する場合がある
新規にクラウドサービスを利用するにあたり、既存システムとの接続をしたい場合、システムの改修が必要になり、コスト負担につながることがあります。また、インターネット環境の利用にあたって通信コストが必要ですが、通信プランや通信量によってコスト増となるケースがあるというのも注意したい点です。
カスタマイズ性が不足する場合がある
クラウドサービスは、基本的にベンダーが準備しているプランの範囲内でしかカスタマイズできません。そのため、プランやオプションをフル活用しても自社のニーズ、既存システムの性能に及ばない可能性があります。
クラウド運用のスキルや知識が不足していたことによる作業量・運用負荷の増大
クラウドサービスの中には情報システム部門を持たない企業やITに詳しくない従業員にも使いやすいサービスがあります。しかし、サーバーを運用するには一定のスキルや知識が必要です。クラウドといえば導入が簡単で使いやすいというイメージが先行してしまい、スキルや知識を持たないまま導入すると、うまく運用できない結果に終わるケースがあります。
また、情報システム部門がある企業でも、各部署が独自にクラウドサービスを導入するケースが少なからずあるようです。この場合、上記と同様の課題が生まれたり、導入するサービスが重複したり、事後に情報システム部門に管理・運用が回ってくることになります。その結果、混乱を招いてしまうケースもあるため、注意が必要です。
起こり得る「クラウド導入後の課題」への対策
それでは、クラウド導入後の課題を見据えた対策について解説します。
クラウドサービス選定時に事業者側のセキュリティ対策を確認する
前述の通り、クラウドは情報漏えいなどセキュリティの担保に関して不安が残る以上、セキュリティ対策を徹底する必要があります。クラウド導入後の継続的な対策も大切ですが、まずは、クラウドサービスを導入する前にベンダー、事業者側のセキュリティに対する取り組みをしっかりと確認しましょう。少しでも疑問点や要望があれば問い合わせ、曖昧なままで導入しないことが重要です。
ランニングコストを自社の運用想定でしっかり事前計算する
クラウドサービスの導入後に必要なランニングコストの計算は、本番の運用を想定した条件で事前にしっかりと計算しておく必要があります。ベンダーの示す料金事例は参考にはなるものの、自社との関連性が低い場合には、実際に必要な金額の根拠にはなりません。この程度で大丈夫だろうといった概算では、予定が狂う可能性があります。
クラウド上の「定型的な運用」については運用自体の自動化を検討する
クラウド導入後の運用が大きな負担になることがあります。解決策としてまず考えられるのが、定型的な運用自体の自動化です。自社システムをオンプレミスからクラウドサービスに移行する場合、最初はサーバーの台数が少なかったとしても、利用が進むにつれて台数が増加するケースは珍しくありません。サーバーの台数が増えるにつれて、運用業務にかかる手間も増えます。
クラウドに移行しても運用の負担を可能な限り増やさないようにするためには、移行前に運用工数がどれだけ必要になるのかや、工数削減の可能性について調べておくことが重要です。そこには運用の自動化も関係してきます。運用を自動化することにより、工数が多くて運用業務の負担が大きいという課題の解決が可能です。
ただし、専門家集団としての情報システム部を抱えている企業や、IT関連企業などスキルや知識を持った人材がいる企業でなければ、運用の自動化を実現するハードルは高いといえます。自社では難しいと思われる場合は、信頼できる支援サービスやソリューションの検討も有力な選択肢です。
自動化が難しい領域の運用については人手による運用を整備する
運用の自動化ができない、難しい領域の運用については人手による運用を整備することで、運用業務の負担軽減を図れます。自動化が難しい領域として真っ先に浮かぶのは非定型な運用です。一般的に自動化を実現するツールは、決まったフローのもの、同じものの処理に強みを発揮します。一方で、障害対応といったイレギュラーな処理は苦手です。
とはいえ、運用の自動化を検討するケースにおいて、人手による非定型運用の選択に妥当性があるのか疑問点として残ります。また、専門的なスキルや知識を要する点は定型的な運用の自動化と同様です。ここでも信頼できる支援サービスやソリューションの検討が選択肢となります。
オンプレミスとクラウドの併用「ハイブリッドクラウド」を検討する
クラウド導入後の課題を解決する方法論として、オンプレミスとクラウドを併用するハイブリッドクラウドの活用があります。他に方法が見当たらない場合、検討してみる価値はあるでしょう。
オンプレミスとクラウドの併用「ハイブリッドクラウド」もひとつの選択肢
ここではハイブリッドクラウドについて、プライベートクラウドとパブリッククラウドの概要も含めて解説します。
- プライベートクラウド
自社内で構築したクラウド環境であり、構築した企業が内部だけで専用クラウドサービスとして利用します。オンプレミスと同様に自社専用で構築するため、ニーズにマッチしたシステムを追求可能です。
また、自社のセキュリティ基準をあてはめる上、外部の利用がないこともセキュリティ面での安心感が大きいといえます。一方で、導入までの時間が長くなる点や専門知識が必要な点に注意が必要です。
プライベートクラウドには、社内にクラウド環境を置く「オンプレミス型プライベートクラウド」と、クラウドサービスのベンダーから提供を受ける「ホステッド型プライベートクラウド」があります。
オンプレミス型プライベートクラウドは物理サーバーを設置するオンプレミスとは異なり、仮想サーバーの設置が可能です。
ホステッド型はオンプレミス型よりも導入スピードが早く、コストを抑えた利用ができる半面、カスタマイズ性は弱くなっています。
- パブリッククラウド
利用者を限定せずにベンダーから提供されたクラウドサービスがパブリッククラウドです。
利用する企業から見れば、不特定多数のユーザーと共同で利用するイメージになります。通常、即導入できて初期費用や運用コストを抑えられるといわれているクラウドサービスは、パブリッククラウドです。さて、ハイブリッドクラウドでは、オンプレミスとパブリッククラウド、プライベートクラウドという種類の異なるサーバーを併用することになります。併用の組み合わせに決まりなどはありません。
併用するメリットは、それぞれのメリットを生かしてデメリットを避けた使い方ができることです。導入速度、コスト、セキュリティ、容量などの要素を考慮した使い分けができます。例えば、自社のニーズにマッチさせやすいプライベートクラウドを使いたいが、すべてをプライベートクラウドで扱うにはコストの問題があるといったケースでは、パブリッククラウドとの組み合わせでコストの高騰を抑えることが可能です。
また、より構築スピードを上げたいなら、オンプレミス型プライベートクラウドではなくホステッド型プライベートクラウドとパブリッククラウドを組み合わせる選択もあります。
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テクバンでは、お客様がクラウドを適切に導入できるよう、AWS(Amazon Web Services )とOCI(Oracle Cloud Infrastructure)、Azure(Microsoft Azure)それぞれのクラウド導入支援サービスを提供しています。パブリッククラウド選びで迷っているお客様やクラウドへの移行についてポイントとなる点を知りたいご担当者様には、以下の資料がおすすめです。
失敗しないパブリッククラウドの選び方。AWS/Azure/OCIの3つを徹底比較
また、サーバー構築支援サービスでは、オンプレミスサーバーのリプレイスから将来を見据えたサーバー環境の構築など、お客様にとって最適な提案を行っています。サービス選択その他、クラウドの導入に関することなど、ご不明点やご不安点がございましたら、お気軽にテクバンへご相談ください。
クラウドは適切に運用すればメリット大
クラウドにはシステム導入までのスピードが速い、初期費用や運用費用を抑えられる、可用性が高く利便性も期待できるといったメリットがあります。さらに、事業の継続性や復旧の早さも強みです。一方で、パブリックな環境におけるセキュリティの不安や場合によってはコストアップとなること、カスタマイズの限界などの注意点もあります。また、運用法によっては専門スキルや知識が必要です。
とはいえ、適切なサービス選択と運用を行うことで、デメリットは小さく、メリットを大きくできます。例えば、支援サービスやソリューションの活用です。自社の現状を把握するところからはじめて、不明な点はベンダーへ相談して解決し、最適なクラウド環境を作りましょう。
クラウドについては以下記事でも詳しく解説しております。併せてご覧ください。
▼クラウドプラットフォーム5つを徹底比較! AWS/GCP/Azure/OCI/IBM
▼クラウド活用のメリットとは? DX化を推進するコツも紹介
▼クラウド運用の費用はどのくらい? オンプレミスとの比較、クラウドサービス同士の比較も