現代のビジネスにおいて、各種業務の円滑な遂行にクラウドコンピューティングは切り離せない存在だといえるでしょう。サービス提供事業者も、様々なアイデアや工夫により新しいクラウドサービスを提供しています。
本記事ではクラウドコンピューティングの理解を進め、実務に役立つクラウドサービスを確認して活用できるように、クラウドの種類について解説します。
クラウドで提供されるサービスの範囲による呼称の違い
インターネットを中心としたネットワーク環境を経由してWebサービスにアクセスするクラウド(クラウド・コンピューティング)では、主に3種類のサービス呼称が使われています。それぞれの違いはサービス範囲の違いです。
「SaaS」はクラウドでアプリケーションを提供
SaaSはSoftware as a Serviceの略称であり、パッケージソフトウェアとして使われているような、様々なアプリケーションソフトウェアをクラウドで提供するサービスの総称です。
個々のPCなどに各ソフトをインストールする必要がなく、アクセス権限とネットに接続可能な端末さえあればどこからでも利用できます。複数の端末から同時にアクセスすることも可能で、データの共同編集も可能です。
また、ソフトがバージョンアップされた場合でも、特に面倒な手続きをすることなく最新版を利用できる点もおすすめポイントだといえます。
SaaSの基本知識や活用時のポイントについては、こちらの記事もご覧ください。
▼「SaaS」と「クラウド」それぞれの定義や導入時のチェックポイントを解説
「PaaS」はクラウドでプラットフォームを提供
PaaSはPlatform as a Serviceの略称です。PaaSでは、アプリケーションソフトウェアをクラウドで使うためのミドルウェアやプラットフォームを提供します。PaaSのプラットフォームとはOSや各種ハードウェアのことです。
アプリケーションソフトウェアにあらかじめ用意されている機能を利用したいニーズに適したSaaSとは異なり、アプリケーションの開発環境を手軽に用意したい企業ニーズに応えます。
PaaSの基本知識やメリットについては、こちらの記事もご覧ください。
▼「PaaS」の基本知識やメリットを解説|IaaS、PaaSとの違いや導入支援サービスも紹介
「IaaS」はクラウドでインフラを提供
IaaSはInfrastrcture as a Serviceの略で、仮想サーバーやストレージ、ネットワークといったインフラ基盤を提供するサービスです。
インフラがあってプラットフォームがあってアプリケーションがあるという3段階の最初の部分であり、PaaSよりもカスタマイズの自由度が高くなっています。その半面、有効に活用するためには専門知識や経験が豊富な人材が社内に必要だといえるでしょう。
IaaSの基本知識やメリットについては、こちらの記事もご覧ください。
▼「IaaS」のメリットとは? クラウドサービスの基本知識から注意点まで解説
運用・管理方法によるクラウドの分類
クラウドの種類を運用・管理方法で分類した場合、マネージド型とセルフマネージド型の2種類が存在します。
マネージド型
マネージド型はクラウドサービスを提供する側が管理者権限を保持する形態です。決められた範囲のサービス利用にとどまる半面、サーバーやソフトウェアの運用・管理対応や関連する業務の負担がありません。
前述した3種類のサービス呼称でいえば、SaaSと同様にクラウドの専門的、技術的な知識を意識せず、サービスの恩恵を受けたいニーズに適しているといえるでしょう。
セルフマネージド型
セルフマネージド型はネットワークやハードウェアの提供を受けるユーザー側が管理権限を保持する形態です。サーバーやソフトウェアの運用・管理を行えるため、より自社にマッチした利用が可能になります。また、サービス利用料金に運用・管理の部分が含まれないため、コストカットが可能です。
ただし、専門知識を有する人材の確保が必要となります。トータルでコストがアップするかダウンするかはケースバイケースだといえるでしょう。
利用者の範囲によるクラウドの分類
クラウドサービスを利用者の範囲によって分類した場合、パブリッククラウドとプライベートクラウドの2種類に分けられます。
パブリッククラウド
パブリッククラウドはサービスの利用者を限定せず、不特定多数を対象として提供されるクラウドサービスです。企業や個人のユーザーは、数多く提供されているパブリッククラウドの中から利用したいサービスを自由に選べます。
プライベートクラウド
プライベートクラウドは、特定のユーザーに向けて提供されるクラウドサービスです。ユーザーは自社内のネットワーク環境下において、ニーズを満たす専用のクラウド環境を構築します。
イニシャルコストやメンテナンスコストが高くなりがちですが、パブリッククラウドでは実現できない自由度の高さが魅力です。プライベートクラウドには、インフラを自社内に置くオンプレミス型と、サービス提供会社の環境を利用するホスティング型があります。
世界の代表的なクラウドサービス
クラウドサービスには世界的に有名なサービスがいくつか存在します。その中でも代表的といえるのが、Amazon Web Services(AWS)とMicrosoft Azure(Azure)、Google Cloud Platform(GCP)、そしてOracle Cloud Infrastructure(OCI)です。ここではそれぞれの概要や料金体系などを紹介します。
Amazon Web Services(AWS)
Amazon Web Services(AWS)は、ECサイト大手のアマゾン社が提供するクラウドサービスです。
PaaSでありIaaSでもあるAWSの2022年の世界シェアは33%(※1)で、国内ではPaaS利用者の60%、IaaS利用者の54.7%(※2)を占めています。IoTやデータベース、ストレージなど豊富なカテゴリの200を超えるサービスを利用でき、個人やスタートアップ、大企業や政府機関まで幅広いユーザー層が利用中です。
AWSの料金体系は大半のサービスが従量制で、使った分だけ支払う方式になっています。また、ボリュームディスカウントの適用を受けることで、使用料が多くなるほどお得感が増す仕組みです。
Microsoft Azure(Azure)
Microsoft Azure(Azure)はWindowsやOfficeでおなじみのマイクロソフト社が提供するクラウドサービスです。
PaaSとIaaSで2022年には22%(※3)とAWSに次ぐ世界シェアを誇っており、国内でもPaaSの48.2%、IaaSの44%(※4)と高い数値を示しています。Azureは3,500人の専門家による監視体制など、強固なセキュリティと信頼性を特徴のひとつとしており、大企業や政府機関での利用が多いとされているサービスです。
Azureの料金体系は従量制となっています。公式サイト上でコストに最大5倍の違いがあると明記するなど、AWSを強く意識している点も大きな特徴です。
Google Cloud Platform(GCP)
Google Cloud Platform(GCP)は検索大手のグーグル社が手掛けるクラウドサービスです。
PaaSとIaaSの世界シェアが2022年には10%(※5)となっており、国内のPaaSでは28.8%、IaaSでは26.2%(※6)となっています。長年にわたり培ってきたノウハウ、コアとなるインフラを生かし、データ分析や機械学習に大きな強みをもっているサービスです。
GCPの料金体系は従量制課金と定額制が採用されています。各種割引を利用することで最大57%のコストカットが可能です。
Oracle Cloud Infrastructure(OCI)
Oracle Cloud Infrastructure(OCI)は、世界トップクラスのOracle Databaseで知られるオラクル社が提供するPaaSとIaaSのクラウドサービスです。
後発であることなどからシェアは低いものの、クラウドでオンプレミスレベルのコンピューティングを実現できるなど、優れた性能が高い評価を受けています。
OCIの料金体系は1時間ごとに課金される従量制または12か月クレジットです。OCIはクラウド・エコノミクスを実現する手段をうたっており、優れたコストパフォーマンスが特徴のひとつになっています。
テクバンでは、AWSや Azure、OCIの導入・構築支援サービスを行っています。
テクバンのAmazon Web Services構築支援
テクバンのMicrosoft Azure構築支援
テクバンのOCI(Oracle Cloud Infrastructure)構築支援
※1、3、5
出典:Synergy Research Group「Huge Cloud Market Still Growing at 34% Per Year; Amazon, Microsoft & Google Now Account for 65% of the Total」
※2、4、6
出典:株式会社MM総研「国内クラウドサービス需要動向調査」(2022年6月時点)
クラウドで提供されている様々なサービスの種類
クラウドで提供されているサービスは多種多様です。そのため、すべては紹介しきれませんが、先にPaaSとIaaSの代表的なサービスを紹介したところで、ここでは代表的なSaaSのサービスカテゴリ例を紹介します。参考にしてください。
グループウェア
主として組織内のメンバー間におけるコミュニケーションや情報共有、連携を円滑化するためのツールであるグループウェアには、メールやスケジュール管理、施設予約、社内SNS(Social networking service)などの機能があります。活用を進めることで、業務効率のアップも見込めるツール、サービスです。
社内SNS
社内SNSは上記グループウェアとしても分類されるSaaSのクラウドサービスです。送受信に手間がかかるメールとは比較にならない手軽さでコミュニケーションがとれる点に大きな特徴があります。資料の添付も容易です。社内の人数が増えればコミュニケーション不足になりがちともいわれています。その解消手段として、顔の見えないメンバー間の迅速なやり取りに効果的です。
オンラインストレージ
SaaSの代表的なサービスともいえるのがオンラインストレージで、クラウドストレージとも呼ばれています。クラウド上のストレージにデータなどを保存できるため、手元で管理する必要がなく、デバイスごとデータを紛失するといったリスクの軽減が可能です。インターネットにつながっていれば、いつでもどこからでも閲覧や編集ができます。
メール配信システム
SNSの普及で双方向のメールが使われにくくなったといわれていますが、情報発信としてのメールの重要性は変わりません。メール配信システムは効果的なメルマガやステップメールの配信と分析など、メールマーケティングに欠かせないツールです。
バックオフィス
経理や総務、人事といったバックオフィスと呼ばれる管理部門の業務効率化を支援するSaaSのクラウドサービスは高機能化しています。クラウド会計や経費精算、給与計算などが代表的なサービスです。
勤怠管理システム
勤怠管理システムはバックオフィスサービスの一種ですが、担当部署にとどまらず、打刻や各種申請といった全社員が操作する部分のあるサービスです。そのため、各サービスで使い勝手のよさが追求されています。
人材管理
人材の確保と育成、有効活用は企業にとって重要課題です。このため、人材管理は数あるバックオフィス業務の中のひとつというよりも、戦略的に取り組む業務といわれています。その中で、クラウド上で効率よく利用できる人材管理ツール(タレントマネジメントシステム)の注目度が上昇中です。
採用管理
人材管理と同様に採用管理の重要度も増しています。採用活動は企画立案から募集、書類選考に面接、内定、入社手続きなど長いスパンで応募者や関係先と多くのやり取りや手続きが発生します。ミスを防いで効率のよい採用活動をサポートするのが、SaaSの採用管理サービスです。
ERP(基幹システム)
エンタープライズ・リソース・プランニングを略したERPは、経営資源などを一元的に管理し効率化・最適化して活用する概念です。この概念を実現するためのツールをERP、基幹システムと呼んでおり、SaaSのクラウドサービスとしても提供されています。
MA(マーケティングオートメーション)
メール、コンテンツ、SNS、オウンドメディアなど企業が行うマーケティングは様々あります。その中で、メールやSMS、LINEなどのマルチチャネル配信やリード管理、ナーチャリングを効率よく行うためのツールがMA(マーケティングオートメーション)です。
BI(ビジネスインテリジェンス)
各種情報を収集・蓄積し、分析・加工することで経営判断、意思決定を支援するツールがBI(ビジネスインテリジェンス)です。SaaSのBIなら、スピーディーで効果的なサポートを期待できます。
SFA(営業支援システム)
SFA(営業支援システム)は営業マンの行動管理、商談の進捗管理と支援を行うツールです。交渉内容の記録や日報などを効率よく管理し、一連の動きを可視化できます。
CRM(顧客関係管理)
CRM(顧客関係管理)は顧客情報を効果的に管理・運用することで、顧客の満足や信頼を獲得し、営業の成果につなげるためのツールです。コールセンター向けCRMが活用されるなど、SaaSならタイムリーに使えます。
名刺管理ツール
名刺を手帳やノートサイズのフォルダで管理する手法は、数が多くなれば物理的にも時間的にも非効率になってしまいます。検索用に一覧表を作成するのも手間です。名刺管理ツールは名刺をクラウド上でデータベース化でき、必要なときにいつでも取り出せます。
ウェブ会議システム
リモートワーク時代の顔が見えるコミュニケーション手段として、ウェブ会議システムの需要は高まっています。SaaSのシステムならコストを抑えた導入が可能です。
eラーニング(LMS)
SaaSのeラーニング(LMS)は、新入社員教育、中堅社員教育や管理職研修、資格取得のための教育など、社内の様々な教育を会場に居合わせなくても実施でき、進捗や結果の管理に役立ちます。
プロジェクト管理
プロジェクト全体の管理や工数の管理は、プロジェクトの規模が大きくなるにつれ、重要度を増すと同時に難しくなりがちです。SaaSのプロジェクト管理は、抜け漏れの防止と効率化に役立ちます。
在庫・生産管理
在庫管理や生産管理は企業の業績に直結する重要な管理であり、自社のニーズに合ったシステムが求められます。SaaSの在庫・生産管理を使うことで、ニーズに合った管理を低コストで導入可能です。
文書管理・EDI(電子データ交換)
企業活動は文書の作成と使用、保管に支えられているといっても過言ではないでしょう。見積書や契約書、請求書などをデジタル管理し、回線を通じて取引先と交換することで、お互いに業務効率の大幅アップが見込めます。
セキュリティ・ウイルス対策
セキュリティツール、ウイルス対策は日々変化しています。SaaSのサービスを利用することで、最新の対策が可能です。
CMS
専門的な知識がなくてもある程度の完成度をもつサイトを作成できるのが、CMS(コンテンツマネジメントシステム)のメリットです。難しい操作をしなくても、一元管理されたデータが各ページのパーツとなるため、ページごとにコーディングして作り込む必要がありません。
クラウドならテクバンへご相談を
テクバンでは前述したPaaSやIaaSの導入、構築支援をはじめ、情シス担当者向けのセミナーや社内ヘルプデスクサービスなど、幅広いクラウド関連サポートを行っています。セキュリティ対策やデバイス管理なども含め、クラウドコンピューティングについてお悩みなら、ぜひテクバンへご相談ください。お客様の課題に合わせ、解決に向けてご提案します。
テクバンのITインフラ構築/運用支援
クラウドの種類は多種多様! 適切なサービスの選択を
クラウドの種類はサービス提供範囲別で見れば3種類、運用・管理方法別と利用者の範囲別なら各2種類あります。また、個別のサービスは多種多様です。
その中で、現在は使っていなかったとしても、自社が使うべきサービス、使うとよいサービスには何があるのか知っていれば、大きな力になるでしょう。
いざというときに選定で迷わないよう、しっかりと把握しておきましょう。