企業のシステムを安定的に稼働させるためには、「運用設計」と呼ばれるプロセスが役立ちます。
いくら完成度の高いシステムを構築しても、実際に稼働させた際にトラブルが発生したり、メンテナンスや変更が必要になったりするため、障害が発生することを前提にして、具体的なルールやプロセスを設計しておくことが重要です。
しかし、運用設計の定義における知識、運用設計がなぜ必要なのか、わからないという方も多いでしょう。
本記事では、運用設計の概要や重要性とともに理想的な運用設計の流れや設計時の注意点を紹介します。
運用設計について理解を深めたいエンジニアの方、システム運用担当者の方は、ぜひ参考にしてください。
運用設計書のサンプルもご用意しております。よろしければご活用ください。
運用設計の定義について
運用設計とは、常時システムを安心して利用できる状況を設計する工程です。システムの安定稼働のための日常的な業務や、障害対応をスムーズに進めるための様々なルールやプロセスを定めます。
システムが正常に稼働しているか、何をどのように監視するのか、定期的にチェックする方法をどうするのか、インシデントを検知した際にどの部署に報告するのか、どんな手順で対応するのかなど、迅速なシステム復旧を実現するために様々な対応を事前に決めて、運用設計書などにまとめておく必要があります。
適切な運用設計を行えば、システム障害が発生した場合に企業が受ける損害を最小限にとどめることができます。システム稼働後の安定した日常業務や、スピーディーな障害対応のためにも詳細な運用設計を行うことが重要です。
運用設計を行うベストなタイミングとは
運用設計は、システム構築後から役目を終えるまで稼働し続けるため、システムの開発設計を行うタイミングで設計するスケジュールがよいとされています。
システム開発の初期段階からその設計に運用担当者が関わることで、システム運用の品質維持や効率化が実現できます。加えて、運用に必要な機能や仕様を開発段階で組み込むことも可能です。
運用設計は3つの分類
運用設計は3つの種類に分類されます。それぞれの定義や、概要について以下で解説します。
1.業務運用設計
業務運用設計とは、システム管理者とユーザーのどちらもスムーズに業務遂行できる設計を行うことです。主に次のような設計があります。
- 業務に使用するアプリケーションが正常に起動、停止できるかどうかなど正常稼働を監視する方法を決める
- 業務に使用するアプリケーションなどの復旧方法や手順を決める
- 業務で使用しているPCやスマホなどのデバイスが正常に使用できる期間を把握し、取り換え対応やメンテナンスを行う
- 問い合わせ対応をだれが、どうするのかといったマニュアル化やリソースの割り振りを行う
2.基盤運用設計
基盤運用設計とは、業務アプリケーションの実行基盤となるシステムやハードウェアなどを、安定運用するためにどうすればよいのかを定めることです。主に次のような設計があります。
- システムに不具合が起きた際のバックアップや、リストアやリカバリを行う手順・ルールなどを決める
- ソフトウェアに修正、アップデートがあった際にパッチを適用する手順を決める
- システム障害発生時の対応方法や手順を決める
- システムが安定して稼働しているかの監視や、IT機器のログ管理などのルールやタイミング(日次・月次など)を決める
- 業務に使用するアカウントの管理方法を決める
3.運用管理設計
運用管理設計とは、人が行う運用管理の部分に対して守るべきルールや手順を検討し、設計することです。主に次のような設計があります。
- いち早く異常を検知するために、システムを横断した統一基準を設定する
- システムやリソースの稼働状況など、システム運用が適切な範囲で行われているかどうか、定期的に性能を確認する
- インシデントやアクシデントの発生頻度や、どのように対応したのかといった運用に関するレポートを定期的に作成する
運用管理については、以下の記事で詳しく解説しています。
▼システム運用管理とは? 安定稼働を実現するための方法を解説
運用設計の重要性
システムを安定稼働させるために、日常的・定期的に現場で行う作業や、障害発生時の対応ルールやプロセスを定めておくことは非常に重要です。以下では、運用設計がもたらすメリットや、運用設計の重要性を紹介します。
障害発生時に適切かつ迅速な対応が可能になる
障害が発生した際の対応は何よりスピード感が求められます。そのために、障害やトラブルが発生した際にどのように対処するのか、対処の手順、エスカレーション先などをあらかじめ計画しておくことが大切です。加えて、障害を発生させないための仕組みづくりも重要とされています。
こうした細かい設計をしておけば、インシデントの頻度を減らし、障害発生時に迅速かつ適切な対応を促進できます。
関連の記事をご用意しております。ぜひご覧ください。
▼適切なインシデント管理とは? 問題点や解決策を解説
セキュリティリスクを低減できる
運用設計は包括的なセキュリティ対策を通じて、システムの安全性と持続性を向上させる役割を果たします。
具体的な役割として、セキュアなデプロイメントプロセスの確立によって、セキュリティベースラインを維持できます。そして、システムやアプリケーションの脆弱性を低減させ、悪意ある攻撃から保護するためのセキュリティ対策を組み込むことで、早期の脅威検知を実現し、異常なアクティビティや不正アクセスに素早く対応できるようになるでしょう。
さらに、運用担当者へのトレーニングや教育を通じ、ヒューマンエラーによるセキュリティリスクの低減につなげられます。
また、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)では、中小企業向けにECサイトの構築・運用に必要なセキュリティ対策と実践方法をまとめた「ECサイト構築・運用セキュリティガイドライン」を公表しています。お客様への影響が大きいECサイトでは、セキュリティインシデントの発生は絶対に避けなければなりません。ECサイト運用設計の雛形として参照してはいかがでしょうか。
マニュアルにより属人化を防ぐことが可能
システムの運用をルール化し、マニュアルを作成することで属人化を防ぐことが可能です。運用設計のようにルールを定めておかなければ、業務フローや障害発生時の対応などが属人化してしまいます。属人化すると、担当者が急遽不在になった、退職したといった場合に社内で対応できる人がいなくなり障害が発生した際に対処ができないという状況に陥ってしまいます。
そこで運用設計によりルールや業務フローを定めることで、様々な人でも対応できるようになるため属人化を防ぐことができるのです。
システムの運用の効率化が図れる
ただでさえシステム運用に関わる業務は複雑ですが、新型コロナウイルスの流行以降、リモートワークで外部からのアクセスが増えたり、利用する端末が増えたりして、より複雑化しているといわれています。しかし、日々の業務を細かくルール化し詳細な運用設計を行えば、こうした複雑化したシステムでもスムーズかつ効率的な対応ができる可能性が高まります。
運用設計の理想的な流れ
適切な運用設計を行うために、どのように設計していくかが重要になります。以下では理想的な運用設計の流れを紹介します。
- 必要な業務の洗い出し
運用設計にあたり、まず業務を洗い出す必要があります。システムを安定稼働させるために、一旦運用設計をわかりやすく分類してから必要な業務を洗い出しましょう。 - 運用設計を行う
システム運用の目的や必要なシステム環境など、大まかな項目から運用設計を行いましょう。
「運用目的」→「必要な環境や要件、管理項目」→「運用体制」という順に設定し上位概念から決定するのがよいとされています。 - テスト、運用開始
作成した運用設計を対象としたテストを実施し、意図した通りに行えるのか、システムは安定して稼働しているのか、業務に支障をきたしていないのかなどをチェックしましょう。テスト通過後、実際にシステム運用を開始できます。 - フィードバックを行う
実際に運用した結果を踏まえてフィードバック、そして修正を行います。運用におけるデータを見ながら改善点の発見、運用設計の改善を定期的に行います。
運用設計を行う際の注意点
運用設計は、企業のシステムを安定稼働させるために非常に重要なワークフローです。実際にシステム運用を開始させた際の安定性やリスクヘッジに大きく影響するため、開発時の各種設計書と同じレベルのクオリティを求められます。
運用設計のクオリティを高めるためには、以下の注意点を意識しましょう。
可用性を重視
可用性は、システム運用を行うにあたり非常に重要な要件です。運用設計において、障害によるサービス停止といったトラブルを可能な限り回避できる運用方法を追求し、システムの高い可用性を高める設計を行うことが重要です。
トラブルによりシステムが停止してしまうと、サービスを提供する企業の業務がストップしてしまい信用失墜や売上損失などのリスクにつながる可能性があります。こうしたリスクを回避するためにも、可用性の担保は必須事項なのです。
機密性を維持する
システム運用において、取り扱う情報が社外に漏れないようにすることを機密性といいます。システム運用では企業の機密情報を取り扱うため機密性の確保は最重要とされているため、高い機密性を意識しなければなりません。外部からの攻撃だけでなく、内部の人間による不正やヒューマンエラーへの対処も必要です。セキュリティ製品の導入・運用といった適切なセキュリティ対策や、アカウント・アクセス権を適切に付与・管理、セキュリティのログ収集などを行い、機密性を確保できる設計を行いましょう。
完全性の担保
完全性の担保とは、システムが保有する情報が正確かつ完全、安全な上に最新である状態で管理されていることをいいます。完全性はシステムが提供するサービスの信頼性に関わるため、運用設計において完全性を担保することは重要です。システム運用の完全性を保つためには、アカウント・アクセス管理が適切に行われているのか、更新に関する手順やマニュアルが適切に設計されているのかといったポイントに留意する必要があります。
また、運用過程で更新される機会もあるため常に最新の状態を保つように心がけましょう。
運用設計と障害対応
システムを運用する上で、的確かつスピーディーな対応を求められるのが障害発生時の対処です。以下のような項目は、より詳細な設計を行うことをおすすめします。これらの設計を適切に定めておくことで、企業の信用や業務停止などの被害を最小限に留めることができるでしょう。
- 障害の判定基準
- エスカレーションルール
- システムにトラブルが発生した際の連絡先と連絡方法
- 対応のフロー、レベル
- 監視対象のシステムへのログイン方法
- 障害対応手順
- 監視や障害対応にかかる時間の目安
- 監視や障害対応を行うにあたっての制限事項
またシステムが正常に動作しているか、異常は発生していないかなどを検知するための仕組みを設計する「監視設計」も併せて行うことで、より対策を強化することができます。詳しくは以下のブログ記事も併せてご確認ください。
▼「監視設計」がシステム運用において重要な理由を解説!
運用設計は安定稼働に必須
安定したシステムの運用に、運用設計がどれほど重要なのかご理解いただけたでしょうか。要件定義をきちんと設計し、どれだけ優れたシステムを構築してもトラブルが発生する可能性はあります。回避できるリスクであれば、それに備えて詳細な運用設計を行い障害発生時に備えることがビジネスの継続において重要です。
しかし、業務負担が大きい、人員不足といった状況に置かれている場合、その課題における解決策としてアウトソーシングを利用するという手もあります。
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他に関連記事をご用意しております。ぜひ参考になさってください。
▼システム開発後の「運用設計」とは? 重要性や進め方を解説