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2025.12.24

キッティング自動化ツール vs アウトソース vs 自社対応|コスト・品質で徹底比較

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PCやスマートデバイスのキッティングは、情報システム部門にとって大きな負担です。そこで本記事では「自動化ツール導入」「アウトソース」「自社対応」の3つの方法を、コスト・品質・スピード・リスクの観点から比較し、最適な選択肢を見つけるための判断基準について解説します。

キッティング業務の3つの選択肢とは

企業がPCやスマートフォン、タブレットなどのIT機器を新規導入したり、入れ替えたりする際に避けて通れないのが、キッティング業務です。キッティングとは、デバイスを従業員がすぐに業務で利用できる状態にするため、OSインストールや各種設定、アプリ導入、セキュリティ対策を行う作業です。
キッティング業務は、企業のIT環境を支える重要なプロセスである一方、複雑で時間のかかる業務でもあります。効率的かつ高品質なキッティングを実現するためには、適切なアプローチを選択することが不可欠です。

キッティング業務が抱える課題

現代のビジネスにおいてIT機器は必要不可欠ですが、その導入・運用を担うキッティング業務には、多くの企業が共通して頭を悩ませる課題が存在します。

時間と手間

数百、数千台規模のデバイスを導入する際、一台一台手作業で設定を行うと膨大な時間と労力がかかります。このため、従業員の業務開始が遅れるだけでなく、情シス部門のコア業務を圧迫します。

人手不足と専門性

キッティングにはOSやネットワーク、セキュリティに関する専門知識が求められますが、IT人材の不足により、十分なスキルを持つ担当者を確保することが困難なケースが少なくありません。結果として、情シス部門の限られた人員に負担が集中しがちです。

コストの増大

作業にかかる人件費はもちろんのこと、設定ミスによる再作業やトラブル対応、さらにはデバイスの配送・保管費用など、見えにくいコストが積み重なり、総コストを押し上げます。

品質のばらつきと属人化

手作業で行うと、設定内容にばらつきが生じやすく、品質の均一化が難しいという問題があります。特定の担当者に作業が集中する属人化も進行しやすく、担当者不在時の業務停滞リスクを高めます。

セキュリティリスク

設定漏れや誤った設定は、企業のセキュリティホールとなり、情報漏洩や不正アクセスなどの重大なリスクを招く可能性があります。最新のセキュリティ要件への対応も常に求められます。

スケーラビリティの欠如

事業拡大に伴うデバイス数の急増や、急な組織変更、リモートワークの普及など、変化するビジネス環境への柔軟な対応が困難になることがあります。
これらの課題は、生産性低下やセキュリティリスクの増大に直結します。

キッティング業務:3つのアプローチ

これらの課題を解決するため、キッティング業務には主に3つのアプローチがあります。
それぞれの方法にはメリット・デメリットがあり、企業の規模、予算、人員体制、求める品質などによって最適な選択肢は異なります。

ツール導入による自動化

専用のソフトウェアやシステムを活用し、キッティング作業を効率化・自動化するアプローチです。MDMツールやイメージング・デプロイメントツール、RPA(Robotic Process Automation)などがこれに該当します。

アウトソース(外部委託)の活用

キッティング業務全体、またはその一部を専門業者に委託するアプローチです。BPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)やLCM(ライフサイクルマネジメント)サービスなどが代表的です。

自社対応(内製化)

企業内のIT情シス部門が、すべてのキッティング作業を自社内で完結させるアプローチです。既存の体制やノウハウを活用します。

本記事では、これら3つのアプローチについて、それぞれの具体的な内容、メリット・デメリット、そしてどのような企業に適しているのか、さらにコスト、品質、スピード、リスク管理といった多角的な視点から徹底的に比較・分析していきます。

ツール導入による自動化

キッティング作業は、PCやスマートフォン、タブレットなどのIT機器を業務で利用可能な状態に設定する重要なプロセスです。手作業で行う場合、多くの時間と労力を要し、人的ミスも発生しやすくなります。そこで注目されているのが、専用ツール導入によるキッティングの自動化です。
ツールを活用することで、作業の効率化や品質の均一化、コスト削減が可能となり、特に大量のデバイスを扱う企業で効果を発揮します。

代表的な自動化ツールの種類

キッティングを自動化するためのツールは多岐にわたりますが、ここでは代表的なものをいくつかご紹介します。

MDM(モバイルデバイス管理)ツール

MDM(Mobile Device Management)ツールは、主にスマートフォンやタブレットといったモバイルデバイスの管理・運用を効率化するためのツールです。デバイスの設定、アプリケーションのインストール、セキュリティポリシーの適用などをリモートで一元的に行えるため、モバイルデバイスのキッティングにおいて大きな効果を発揮します。
特にApple製品では、Apple Business Manager(ABM)やAutomated Device Enrollment(ADE)と連携することで、ユーザーがデバイスの電源を入れるだけで自動的に企業設定が適用される「ゼロタッチキッティング」を実現することも可能です。
さらに詳しくはこちらの記事をご覧ください。
▼MDMサービスとは何か? 機能や必要性、法人の導入・サービス比較ポイントと選び方を徹底解説
キッティングの基本については、「▼キッティング作業とは? 目的から手順、注意点、効率化のポイント、そして外部委託の活用法まで徹底解説!」の記事もご参照ください。

イメージング・デプロイメントツール

イメージング・デプロイメントツールは、マスターとなるPCのOSやアプリケーション、各種設定を「イメージ」として複製し、それを他の複数のPCに一括で展開するツールです。
このため、1台ずつ手作業で設定する手間を省き、大量のPCを短時間で均一な状態にキッティングできます。クローニングとも呼ばれるこの手法では、事前にマスターイメージを作成する手間はかかりますが、同一機種であれば作業効率が飛躍的に向上します。
ただし、Microsoftのライセンス違反とならないよう、sysprepなどのシステム準備ツールを実行してPCの固有情報を初期化する必要があります。
クローニングについては「▼クローニングとは? PCキッティングを効率化する方法とツール導入のポイント、注意点を解説」で詳しく解説しています。

RPA(ロボティックプロセスオートメーション)

RPAは、PC上で行われる定型的な操作をソフトウェアロボットが自動で実行するツールです。
キッティングにおいては、アプリケーションのインストール、アカウント設定、セキュリティソフトの導入、ネットワーク設定など、繰り返し発生する作業を自動化し、人的ミスを削減できます。特に、専用のキッティングツールでは対応しきれない細かな個別設定や、様々なアプリケーションのインストール作業に有効です。

統合型IT資産管理ツール

統合型IT資産管理ツールは、PCやソフトウェアライセンス、モバイル端末など、企業が保有するIT資産全体を一元的に管理するためのツールです。
キッティング機能も内包していることが多く、デバイスの導入から運用、廃棄までのライフサイクル全体を効率化します。キッティング時には、デバイスの資産情報を自動収集し、ソフトウェアの配布やセキュリティ設定を連携して行うことで、管理台帳の正確性向上やセキュリティリスクの低減に貢献します。
IT資産管理ツールについて詳しくはこちらの記事をご参照ください。
▼IT資産管理ツール比較10選! 機能、タイプ別の選び方も紹介

ツール導入のメリット

キッティングに自動化ツールを導入することで、以下のような多岐にわたるメリットが期待できます。

作業時間の短縮と効率化

手作業で数時間かかっていたキッティング作業を大幅に短縮し、情報システム部門の負担を軽減します。

人的ミスの削減

ツールが設定を自動で行うため、手入力によるミスや設定漏れを防ぎ、品質の均一化が図れます。

コスト削減

作業時間の短縮は人件費の削減に直結し、長期的に見ればキッティングにかかる総コストを抑制できます。

品質の標準化

常に同じ設定が適用されるため、デバイスごとの品質にばらつきがなくなり、トラブル発生のリスクを低減します。

セキュリティ強化

最新のセキュリティパッチ適用や統一されたセキュリティ設定を自動で行うことで、初期導入時の脆弱性をなくし、情報漏えいリスクを低減します。

ツール導入のデメリット・注意点

一方で、ツール導入にはいくつかのデメリットや注意点も存在します。

初期投資と運用コスト

ツールの導入には初期費用がかかり、年間ライセンス料などの運用コストも発生します。導入メリットがコストに見合うかどうかの慎重な試算が必要です。

専門知識の必要性

ツールの選定、導入、設定、マスターイメージの作成などには、専門的な知識やノウハウが求められる場合があります。

機種ごとのマスター作成

イメージングツールの場合、異なるハードウェア構成の機種にはそれぞれマスターイメージを作成する必要があり、機種が多い場合は手間が増える可能性があります。

シナリオ作成の手間

RPAを活用する場合、自動化したい作業のシナリオ作成に時間がかかることがあります。

既存システムとの連携

既存のIT資産管理システムなどとの連携がスムーズに行えるか、事前に確認が必要です。

ツール導入が向いている企業

キッティング自動化ツールの導入は、特に以下のような企業に推奨されます。

  • 大量のデバイスを管理する企業
  • キッティング作業に多くの時間を費やしている企業
  • 設定ミスのリスクを最小限に抑えたい企業
  • セキュリティポリシーを徹底したい企業
  • リモートワーク環境を推進している企業

アウトソース(BPO・LCM)の活用

キッティング業務の効率化や品質向上を目指す上で、自社での対応やツールの導入と並び、有力な選択肢となるのがアウトソース(外部委託)です。専門業者に業務を委託することで、企業のIT情シス部門の負担を大幅に軽減し、より戦略的な業務に集中できる環境を整えることが可能になります。

キッティングアウトソースとは

キッティングアウトソースとは、IT機器の導入・展開に関わる作業を外部の専門業者に委託することです。
これには、単なる初期設定だけでなく、企業の要件に応じたOSのインストール、アプリケーションのセットアップ、ネットワーク設定、セキュリティ対策の適用、資産管理タグの貼付など、多岐にわたる作業が含まれます。

特に、BPOやLCMといった形で提供されることが多く、BPOは特定の業務プロセス全体を外部に委託する形態を指し、LCMはIT機器の調達から導入、運用、保守、そして廃棄に至るまでのライフサイクル全体を包括的に管理するサービスを意味します。企業はIT機器の管理に関する煩雑な業務から解放され、本来のコアビジネスに注力できるようになります。
さらに詳しくは「▼キッティングサービスとは? 任せられる作業範囲とメリット、選び方のポイントを解説」の記事でも解説しています。

アウトソースのメリット

キッティング業務をアウトソースすることには、いくつかの明確なメリットがあります。

第一に、専門業者による高品質かつ安定した作業が期待できる点です。
専門知識を持つ業者が対応することで、設定ミスを抑え、均一な品質を保てます。導入後のトラブルを未然に防ぎ、従業員がスムーズに業務を開始できる環境が整います。

第二に、IT情シス部門の負担軽減とコア業務への集中です。キッティング作業は多くの時間と労力を要するため、これを外部に委託することで、社内のIT担当者はシステム戦略の立案やセキュリティ強化など、より重要度の高い業務にリソースを集中させることが可能になります。また、一時的に大量のデバイスを展開する必要がある場合でも、必要なリソースを柔軟に確保できるため、急な需要変動にも対応しやすいという利点があります。

第三に、コストの最適化です。自社でキッティングを行う場合、専門ツールの導入費用や作業スペースの確保、一時的な人員増強にかかる費用などが発生します。アウトソースではこれらの初期投資が不要となり、作業量に応じた費用を支払う形となるため、固定費を変動費化し、コストの透明性を高めることができます。

アウトソースによるキッティングの費用相場や業者選定のポイントについては「▼キッティング代行の費用相場は? 作業内容とサービス業者の選び方、コストダウンの秘訣も解説」もご参照ください。

アウトソースのデメリット・注意点

アウトソースには多くのメリットがある一方で、いくつかのデメリットと注意点も存在します。
最も懸念される点の一つは、情報共有や連携の複雑化です。外部業者と十分なコミュニケーションが取れない場合、要件の齟齬が生じたり、進捗状況が見えにくくなったりする可能性があります。特に、企業独自の細かな設定やセキュリティポリシーを正確に伝えるためには、事前の詳細な打ち合わせと定期的な進捗確認が不可欠です。

また、柔軟性も考慮すべき点です。急な仕様変更や特殊なカスタマイズ要件が発生した場合、外部業者では対応に時間がかかったり、追加費用が発生したりすることがあります。そのため、事前にどこまでの範囲を委託し、どのような変更に対応可能かを確認しておく必要があります。

さらに、情報漏えいリスクも重要な注意点です。IT機器には企業の機密情報や個人情報が含まれる可能性があるため、委託先のセキュリティ体制が不十分な場合、情報漏えいのリスクが高まります。そのため、委託先のセキュリティポリシー、認証取得状況、実績などを十分に確認し、信頼できる業者を選定することが極めて重要です。

最後に、キッティングに関するノウハウが社内に蓄積されにくいという側面もあります。長期的にアウトソースを続けると、自社内でトラブル対応や設定変更の知見が蓄積しにくくなるため、将来的に内製化を検討する際に課題となる可能性があります。

アウトソースが向いている企業

キッティングのアウトソースは、以下のような特徴を持つ企業に特に適しています。

  • IT資産の台数が多く、定期的な入れ替えや展開がある企業
    数百台、数千台規模のデバイスを扱う企業では、内製化ではリソースが圧倒的に不足しがちです。
  • 情報システム部門の人員が不足している、またはコア業務に集中させたい企業
    日常的なキッティング業務に忙殺されず、戦略的なIT投資やセキュリティ強化に注力したい場合に有効です。
  • キッティング作業の品質を均一化したい企業
    全国に拠点を持つ企業や、多数の従業員に同一の環境を提供したい場合、専門業者による均一な品質は大きなメリットとなります。
  • 初期投資を抑え、コストを変動費化したい企業
    キッティングツールの導入や作業スペースの確保に多額の初期費用をかけたくない場合に適しています。
  • 高度なセキュリティ対策やデータ消去を求める企業
    専門業者であれば、最新のセキュリティ基準に準拠した設定や、データ消去証明書の発行など、厳格な対応が可能です。

テクバンのLCMサービスの特徴

テクバンが提供するLCMサービスは、企業が利用するIT機器の調達から導入、運用、保守、そして廃棄まで、デバイスのライフサイクル全体をワンストップでサポートすることが強みです。IT機器管理に関するあらゆる業務を一任いただくことで、組織の業務効率化とコスト削減を実現します。

まず機器の調達支援では、企業のニーズに合わせた最適なデバイス選定やベンダー交渉を代行します。
次に、キッティング・展開サービスでは、OSのインストールから各種アプリケーションのセットアップ、ネットワーク設定、セキュリティパッチの適用など、導入後の利用者がすぐに業務を開始できる状態に設定します。
また、展開後の運用・保守においては、障害対応やヘルプデスク機能を提供し、利用者の問い合わせやトラブルに迅速に対応します。

さらに、機器のリース期間満了や故障時には、データ消去を含む適切な廃棄処理を代行し、情報漏えいのリスクを徹底的に排除します。
このように、テクバンのLCMサービスは、IT機器の管理にかかる企業の負担を最小限に抑え、ITガバナンスの強化にも貢献する包括的なソリューションを提供しています。そのため、お客様はIT資産の管理に関する専門知識やリソースが不足していても、安心してデバイス運用を続けられるようになります。

テクバンのLCMサービスの詳細はLCM(Life Cycle Management)サービスページをご覧ください。

自社対応(内製化)

キッティング業務を自社内のリソースで完結させる「自社対応(内製化)」は、これまで多くの企業で選択されてきたアプローチです。
外部サービスやツールの導入に頼らず、社内のIT情シス部門や総務部門が直接、PCやスマートデバイスの設定、アプリケーションのインストール、アカウント設定などを行います。
この方法は、特に企業規模が小さく、デバイスの展開台数が少ない場合に採用されやすい傾向にあります。

自社対応の実態

多くの企業における自社対応の実態は、情シス担当者や兼任の総務担当者が、手作業で1台ずつデバイスをセットアップしているケースが一般的です。
新入社員のデバイス準備や故障時の交換対応など、突発的なキッティング需要に対応するため、他の業務と並行して作業を進めることになります。その結果、担当者の負担が増大し、コア業務に支障をきたすことがあります。
また、手順書が存在しない、あるいは更新されていないために、特定の担当者にしかキッティングができない「属人化」リスクもあるのです。

自社対応のメリット

自社対応にはいくつかの明確なメリットがあります。
まず、外部委託費用やツール導入費用といった直接的なコストが発生しない点が挙げられます。予算が限られている企業にとっては、大きな魅力となるでしょう。
また、社内でキッティングを行うため、セキュリティポリシーを厳格に適用し、機密情報の取り扱いを完全にコントロールできます。外部に情報が漏えいするリスクを最小限に抑えられるのは大きな利点です。
さらに、キッティングに関するノウハウが社内に蓄積され、将来的なトラブル対応や改善に活かせる可能性もあります。
そして、急な設定変更や少量のデバイス追加にも柔軟に対応できるため、突発的なニーズへの対応力が高いといえるでしょう。

自社対応のデメリット・注意点

一方で、自社対応には多くのデメリットと注意点が存在します。
最も大きな課題は、担当者の業務負担の増大と属人化です。
キッティング作業は時間と手間がかかるため、担当者の残業増加や、繰り返し作業による業務への集中力低下を招きます。
また、特定の担当者しか作業できない状態になると、その担当者が不在の場合に業務が滞るリスクがあります。
手作業による設定は、ヒューマンエラーを誘発しやすく、設定ミスによる品質のばらつきやセキュリティリスクの発生も懸念されます。
さらに、最新のOSやアプリケーションへの対応、セキュリティパッチの適用など、常に最新情報をキャッチアップし続ける必要があり、専門知識の維持・向上にもコストがかかります。
デバイスの展開台数が増加すると、手作業での対応は非効率的になり、スケールメリットが失われるため、生産性が著しく低下します。

自社対応が向いている企業

自社対応が最適な選択肢となる企業は、以下のような特徴を持つ場合です。

  • デバイスの年間展開台数が非常に少ない企業
    年間数十台以下など、展開台数が限定的で、キッティング作業が情シス部門や総務部門の大きな負担にならない場合です。
  • 独自の厳格なセキュリティポリシーを持つ企業
    社内規定により、デバイス設定や管理作業を外部に一切委託できないと判断している企業が該当します。
  • 社内にキッティング対応が可能なIT人材が確保されている企業
    キッティングに関する十分な知識・経験を持つ人材が在籍しており、かつ作業に割ける時間的リソースが確保できている場合です。
  • 初期投資を抑えたい中小規模の企業
    ツール導入や外注費をかけずに対応したい一方で、人的・時間的リソースにある程度余裕がある企業では、一時的に自社対応を選択するケースがあります。

ただし、事業成長に伴いデバイス台数が増加した場合は、効率性や品質維持の観点から他の選択肢への移行を検討する必要があります。

徹底比較:4つの評価軸で分析

キッティング業務における「ツール導入による自動化」「アウトソース(外部委託)」「自社対応(内製化)」の3つのアプローチについて、4つの評価軸で比較します。

①コスト比較

キッティングにかかるコストは、初期費用と運用費用に大別され、選択肢によって大きく異なります。

ツール導入による自動化

ツール導入による自動化の場合、初期費用としてツールのライセンス購入費や導入コンサルティング費用、既存システムとの連携費用が発生します。
運用費用は、年間のライセンス更新料や保守費用、そして自動化ツールを操作・管理するIT情シス部門の人件費が主な内訳です。
大量のデバイスを扱う企業ほど、長期的に見れば人件費削減効果によるコストメリットが大きくなります。

アウトソース

アウトソースでは、初期費用は比較的抑えられる傾向にありますが、デバイスの台数や作業内容に応じたサービス利用料が運用費用として継続的に発生します。
サービス内容によっては、キッティングだけでなく、資産管理やヘルプデスクまで含んだLCMサービスとして提供されるため、初期費用が高額に見えても、自社で全てを担うよりもトータルコストで優位になるケースもあります。
特に、一時的な大量導入やIT情シス部門のリソースが限られている企業にとっては、コスト効率の良い選択肢となり得ます。

自社対応

自社対応は、ツールの導入や外部委託費用がかからないため、直接的な初期費用は最も低いといえます。
しかし、キッティング作業を行うための人件費、作業スペースの確保、専用ツールの購入費用(OSイメージ作成ツールなど)、トラブル発生時の対応コストなど、見えにくいコストが多く発生します。特に、作業の属人化が進むと、特定の担当者の離職によって業務が停滞するリスクも間接的なコストとして考慮すべき点です。

②品質・安定性の比較

キッティングの品質と安定性は、その後のデバイス利用におけるユーザーエクスペリエンスやセキュリティに直結します。

ツール導入による自動化

ツール導入による自動化は、事前に定義されたスクリプトやテンプレートに基づいて作業が実行されるため、人為的なミスを排除し、極めて高い品質と安定性を実現できます。
設定の標準化が容易で、常に均一な状態のデバイスを展開することが可能です。ただし、ツールの設定ミスや不具合が発生した場合は、広範囲に影響が及ぶリスクもあります。

アウトソース

アウトソースの場合、専門のキッティングベンダーは豊富な経験とノウハウを持つため、高品質なサービスが期待できます。
多くのベンダーは、独自のチェック体制や品質管理基準を設けており、安定した品質でのサービス提供が可能です。
また、最新のOSやソフトウェアへの対応も迅速に行われる傾向があります。ただし、ベンダーの選定を誤ると、期待した品質が得られない可能性もあるため、実績や体制を十分に確認することが重要です。

自社対応

自社対応では、担当者のスキルや経験に品質が大きく左右されます。熟練した担当者がいれば高品質なキッティングが可能ですが、担当者の入れ替わりやスキルレベルのばらつきによって、品質にムラが生じやすいという課題があります。
作業手順の標準化やドキュメント化が不十分な場合、品質の安定性を保つことは困難といえるでしょう。

③スピード・柔軟性の比較

ビジネス環境の変化に迅速に対応するためには、キッティングのスピードと柔軟性も重要な評価軸です。

ツール導入による自動化

ツール導入による自動化は、一度設定を完了すれば、大量のデバイスを短時間で展開できるため、圧倒的なスピードを誇ります。
急な増員やプロジェクト開始に伴うデバイスの大量導入にも柔軟に対応できます。設定変更も一元的に行えるため、OSアップデートやアプリケーション追加などの要件変更にも比較的迅速に対応可能です。

アウトソース

アウトソースは、ベンダーの体制や契約内容によりますが、通常、自社リソースを圧迫することなく、ある程度の規模のキッティングを短期間で完了させることが可能です。
特に、繁忙期や突発的な大量発注に対しては、外部の専門リソースを活用することで柔軟に対応できます。ただし、急な仕様変更や特殊なカスタマイズ要件が発生した場合、ベンダーとの調整に時間を要する可能性があります。

自社対応

自社対応の場合、少量のデバイスであれば迅速に対応できることもありますが、大量のデバイスとなると、IT情シス部門の通常業務を圧迫し、展開スピードが大幅に低下する傾向にあります。
また、急な仕様変更や特殊なカスタマイズには、社内リソースの調整や新たな知識の習得が必要となり、柔軟な対応が難しい場合があります。

④リスク管理の比較

キッティングにおけるリスク管理は、情報セキュリティの観点からも非常に重要です。

ツール導入による自動化

ツール導入による自動化は、設定の標準化によりセキュリティポリシーの適用漏れを防ぎ、人為的な設定ミスによる情報漏えいリスクを低減します。
また、ツールによっては、デバイスの紛失・盗難時のリモートワイプ機能など、セキュリティ対策機能が統合されているものもあります。ただし、ツールの脆弱性や不正アクセスへの対策は常に講じる必要があります。

アウトソース

アウトソースを利用する場合、ベンダーが適切なセキュリティ対策を講じているかどうかが最も重要なリスク要素となります。
情報セキュリティマネジメントシステム(ISMS)認証取得の有無や、データ取り扱いに関する契約内容、監査体制などを十分に確認する必要があります。
信頼できるベンダーを選定することで、自社で対応するよりも高度なセキュリティ対策が期待できる場合もあります。

自社対応

自社対応では、社内のセキュリティポリシーに基づいたキッティングが行われますが、担当者のセキュリティ意識や知識レベルに依存するリスクがあります。誤った設定や不適切なデータの取り扱いによって情報漏えいやマルウェア感染などのリスクが高まります。
また、作業環境の物理的なセキュリティ対策も自社で責任を持つ必要があります。

企業規模別:最適な選択肢とは?

では、キッティングをどう行うべきか、企業規模別に解説します。

小規模企業(従業員100名未満、デバイス50台以下)

小規模企業においては、限られたリソースと予算の中で効率的なキッティングを実現することが最重要課題となります。専任のIT担当者がいない、あるいは少人数である場合が多いため、キッティング業務に多くの時間や手間を割くことは困難です。
このような企業では、初期投資を抑えつつ、導入から運用までがシンプルなアウトソースの活用が特に有効な選択肢となります。専門業者に委託することで、高品質を保ちつつ、社内リソースを本来の業務に集中できるようになるでしょう。
また、少数のデバイスであれば、クラウドベースのMDMツールなど、手軽に導入できる自動化ツールを部分的に活用することも検討に値します。

中規模企業(従業員100~500名、デバイス50~300台)

中規模企業では、デバイスの展開台数が増加し、キッティング業務の複雑性も増す傾向にあります。この段階では、コストと品質、そして柔軟性のバランスが重要になります。
社内にIT情シス部門が存在することが多く、ある程度の技術力があるため、自動化ツールの導入を本格的に検討するフェーズに入ります。特に、イメージング・デプロイメントツールや統合型IT資産管理ツールは、標準化されたキッティングプロセスを構築し、効率化を図る上で大きな効果を発揮します。
しかし、繁忙期や突発的な大量導入の際には、社内リソースだけでは対応しきれない場合もあるため、アウトソースを併用したハイブリッドな運用も有効な戦略です。自社対応と外部委託の最適な組み合わせを見つけることが成功の鍵となります。

大規模企業(従業員500名以上、デバイス300台以上)

大規模企業では、デバイスの管理台数が非常に多く、セキュリティ、コンプライアンス、そしてグローバル展開といった要素が複雑に絡み合います。キッティング業務は、単なるデバイス設定作業ではなく、企業全体のIT戦略の一部として位置づけられます。
この規模の企業では、高度な自動化ツールと、専門知識を持つ社内ITチームによる内製化が中心となることが多いようです。MDMツールや統合型IT資産管理ツールを最大限に活用し、キッティングプロセスの標準化、効率化、そしてログ管理の徹底を図ります。
また、RPAを活用して定型業務を自動化することで、さらなる生産性向上が期待できます。ただし、特定の地域での展開や、一時的な大量導入など、戦略的なアウトソースを組み合わせることで、社内リソースの最適化とリスク分散を図ることも重要です。

失敗しない選び方のポイント

キッティングの自動化、アウトソース、または自社対応のいずれを選択するにしても、その決定は企業のIT戦略に大きな影響を与えます。後悔のない選択をするためには、現状を正確に把握し、将来を見据えた多角的な視点から検討することが不可欠です。ここでは、失敗を避けるために押さえておくべき重要なポイントを解説します。

選定前に確認すべき5つのチェックポイント

キッティングのアプローチを決定する前に、まずは自社の状況を客観的に評価しましょう。以下の5つのチェックポイントは、最適な選択肢を見つけるための羅針盤となります。

年間のデバイス展開台数と増加予測

年間で展開するPCやスマートデバイスの台数、そして今後数年間の増加予測は、選択肢を絞り込む上で最も基本的な情報です。展開台数が少なければ自社対応でも賄えるかもしれませんが、数百台規模になると自動化ツールやアウトソースの検討が現実的になります。将来的な事業拡大に伴うデバイス数の増加も考慮し、スケーラビリティのあるソリューションを選ぶことが重要です。

情シス部門の人員体制と技術レベル

情報システム部門の人員数、そしてキッティング作業に関する専門知識や技術レベルは、内製化の可否を判断する上で不可欠です。リソースが限られている場合や、専門知識を持つ人材が不足している場合は、アウトソースや自動化ツールによる負荷軽減を検討すべきでしょう。
ツールの導入を検討する際は、運用を担うメンバーが使いこなせるかという視点も忘れてはなりません。

予算(初期投資 vs ランニングコスト)

キッティングにかける予算は、初期投資と継続的なランニングコストの両面から評価する必要があります。
自動化ツールは初期投資がかかるものの、長期的に見ればコスト削減につながる可能性があります。
アウトソースは月額費用が発生しますが、人件費や設備投資を抑えられます。単に目の前のコストだけでなく、TCO(Total Cost of Ownership:総所有コスト)を考慮した予算計画を立てましょう。

カスタマイズ要件の有無

特定の業務アプリケーションのインストールや、複雑なセキュリティ設定など、キッティングプロセスに独自のカスタマイズ要件があるかを確認します。
要件が多岐にわたる場合、汎用的な自動化ツールでは対応が難しい場合や、アウトソース先との綿密な連携が必要になる場合があります。自社の固有のニーズに柔軟に対応できるかが選定の鍵となります。

既存システムとの連携要件

既に導入しているIT資産管理システム、Active Directory、MDMツールなど、ITインフラとの連携が必要かどうかを確認します。スムーズな連携が実現できれば、運用効率が大幅に向上します。
逆に連携が困難な場合、新たなシステム導入に伴う運用負荷が増大する可能性があります。既存システムとの互換性や連携実績は、ベンダー選定時の重要な評価項目です。

よくある失敗パターンと対策

キッティングのアプローチ選定では、多くの企業が陥りやすい落とし穴があります。これらの失敗パターンを事前に把握し、適切な対策を講じることで、リスクを最小限に抑えることができます。

失敗例①コストだけで判断して品質が低下

「とにかく安く済ませたい」という理由だけでベンダーやツールを選定すると、結果的にキッティングの品質が低下し、その後の運用でトラブルが頻発する可能性があります。
例えば、初期設定の不備によるセキュリティリスクの増大や、アプリケーションの動作不良などが挙げられます。コストと品質のバランスを見極め、長期的な視点で投資対効果を評価することが重要です。

失敗例②ツール導入したが使いこなせない

高機能な自動化ツールを導入したものの、その複雑さから情シス部門が使いこなせず、結局手作業に戻ってしまったというケースも少なくありません。ツールの機能だけでなく、導入後のトレーニングやサポート体制が充実しているか、そして自社の技術レベルに見合っているかを事前に確認しましょう。

失敗例③アウトソース先の選定ミス

アウトソース先を十分に吟味せず選定してしまうと、対応の遅さ、品質の低さ、情報共有の不足など、様々な問題が発生する可能性があります。アウトソース先の実績、専門性、セキュリティ対策、そして担当者とのコミュニケーションの質を慎重に評価することが不可欠です。

失敗例④自社対応で属人化が進行

自社対応を続ける中で、特定の担当者しかキッティング作業を行えない「属人化」が進むことがあります。担当者の退職や異動、あるいは長期休暇によって業務が滞り、緊急時の対応が困難になるリスクです。
手順書の整備や複数人での情報共有、あるいは自動化ツールやアウトソースへの移行を検討することで、属人化のリスクを軽減できます。

ベンダー選定時の重要ポイント

自動化ツールやアウトソースを検討する際、適切なベンダーを選ぶことは成功への鍵となります。
ベンダー選定においては、単にサービス内容だけでなく、企業の信頼性、サポート体制、そして将来的な拡張性も考慮に入れるべきです。具体的な実績や導入事例を確認し、自社の業界や規模に合った経験を持つベンダーを選ぶことが望ましいでしょう。

まとめ:まずは現状分析から始めよう

本記事では、キッティング業務における「ツール導入による自動化」「アウトソース活用」「自社対応(内製化)」という3つの主要なアプローチについて、コスト、品質、スピード、リスク管理の4つの評価軸で徹底的に比較検討してきました。

どの選択肢が貴社にとって最適であるかは、年間のデバイス展開台数、情シス部門の人員体制と技術レベル、確保できる予算、必要なカスタマイズ要件、既存システムとの連携など、多岐にわたる要素によって大きく異なります。

安易に一つの方法に決めつけるのではなく、まずは現状のキッティング業務が抱える課題を明確にし、将来的な事業計画やIT戦略を見据えた上で、最もバランスの取れたアプローチを見極めることが成功への第一歩となります。

本記事で提示した比較軸や企業規模別の考え方を参考に、ぜひ具体的な現状分析から着手してください。ただし、お悩みの際はテクバンまでぜひお気軽にご相談ください。

デバイス管理やキッティングに関するより詳しい情報は、以下の関連ページもご覧ください。
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