クラウドの登場により、システムには複数の形態が誕生しました。主な種類としては、従来のように物理サーバーを自社内に配置して運用するオンプレミス、クラウドサービスを利用するクラウド、そしてその両方のメリットが得られるハイブリッドクラウドがあります。
本記事では、オンプレミス、クラウド、そしてハイブリッドクラウドのメリット・デメリットを比較して詳しく解説します。
オンプレミス
まずはオンプレミスの概要や、メリット・デメリットを紹介します。
自社内に物理サーバーを配置してシステムを導入する
オンプレミスとは、企業が社内で利用する情報システムを自社内の施設に設置して運用する形態のことです。設置する機器はサーバー以外にルーター、スイッチなどのネットワーク機器などが挙げられます。
規模が大きなシステムでは、自社内のサーバールーム以外にデータセンターを活用して機器を設置し運用する場合もありますが、これもオンプレミスです。データセンターでは耐震性、耐火性に優れ、電源設備も充実しているため、安全にシステムを運用できます。
メリット
オンプレミスのメリットは、以下の3点が挙げられます。
- セキュリティを確保できる
- カスタマイズ性が高い
- コストが管理しやすい
・セキュリティを確保できる
まず、自社内に機器が設置されており接続可能なネットワークも限られているため、外部から直接接続されることがありません。情報漏えいや外部からの攻撃といったリスクを最小限に抑えられるためセキュリティが確保できます。
・カスタマイズ性が高い
稼働しているシステムも自社所有のものであるため、自由にカスタマイズが可能です。サーバーのスペックやネットワークの構成、既存システムとの連携なども自由に決められます。
・コストが管理しやすい
メリットの3点目として、コストを管理しやすい点が挙げられます。クラウドとは異なり、システムの利用によるコスト変動がありません。ある程度初期費用はかかるものの、比較的コストを抑えられるためコスト管理がしやすいというメリットがあります。
デメリット
オンプレミスのデメリットは、以下の3点が挙げられます。
- 初期導入コストが高い
- 運用コストがかかる
- 災害に弱い
・初期導入コストが高い
オンプレミスのデメリットとして大きいのは、初期導入コストが高いことです。サーバーやネットワーク機器の費用が高く、数千万〜数億円となってしまうことも少なくありません。また、機器の設置やインフラの構築、システムの稼働まで多くの人件費と期間が必要とされています。
・運用コストがかかる
設置した機器に故障や障害が発生すると、その分のメンテナンスや復旧対応も自社で行う必要があります。オンプレミスでは、それらの運用コストもかかります。
・災害に弱い
オンプレミスは、災害など外的要因からの影響が受けやすいことも特徴です。一般的な建物では、地震や落雷による停電などを受けてサーバーが停止する可能性もあります。データセンターなど強固な施設に機器を設置することで、外的要因の影響を抑えることが可能です。
クラウド
以下ではクラウドの概要や、メリット・デメリットを紹介します
クラウドサービスを契約してシステムを構築する
クラウド(クラウドコンピューティング)とは、クラウドサービスを提供する事業者と契約し、自社内に機器を設置することなくクラウドサービス上にシステムを構築して利用する形態です。クラウドサービスは、アマゾン社が提供するAWS(Amazon Web Service)、マイクロソフト社が提供するMicrosoft Azureなどがあります。
クラウドは、大きく「パブリッククラウド」と「プライベートクラウド」の2種類があります。パブリッククラウドは、利用者を限定せず誰でも必要な時に必要なリソースを利用できる形態です。一方プライベートクラウドは、自社内にクラウド環境を構築し、自社内のグループや社員が利用できる形態のことを指します。
メリット
クラウドの主なメリットは、以下の3点があります。
- 初期導入コストが安く、素早く導入できる
- 機器の物理的な管理をする必要がないため運用が楽
- 自由にリソースを変更できる
・初期導入コストが安く、素早く導入できる
クラウドの利用にあたってはインターネットへの接続環境さえあれば、クラウドサービス契約後すぐに利用できます。自社内に専用の機器を設置したり環境を構築したりする必要はありません。そのため、初期コストを抑えられるだけでなく、素早く導入できます。
・機器の物理的な管理をする必要がないため運用が楽
クラウドを利用する場合は機器を物理的に購入・設置する必要がないため、物理的な故障や障害を意識する必要がありません。そのため、オンプレミスと比べて運用が楽という特長が挙げられます。
・自由にリソースを変更できる
クラウドは、必要なリソースを必要な量だけ柔軟に変更できる点が魅力です。例えば、ECサイトの運用においてイベントやキャンペーンなどで一時的にアクセスが多くなった場合、その期間だけサーバーをスケールアップする、といった運用が可能になります。
このように、クラウドは「インターネット経由でリソースを自由に利用できる」という点から様々なメリットが得られます。
デメリット
クラウドのデメリットは、以下が挙げられます。
- カスタマイズ性が比較的低い
- セキュリティリスクがある
- 障害発生時は復旧を待つしかない
・カスタマイズ性が比較的低い
クラウドはあくまで事業者ごとの提供サービスであるため、提供されるサービスの範囲でしかカスタマイズができません。自社で利用するシステムに独自の機能が実装されていると、クラウドサービスによってはその機能が使えない可能性があるため注意が必要です。
・セキュリティリスクがある
特にパブリッククラウドは誰でも利用できるという形態であることから、セキュリティリスクが考えられます。実際に、誤った設定により誰でも情報が参照できる状態となってしまい、情報漏えいが発生したケースもあるようです。
・障害発生時は復旧を待つしかない
クラウドは、障害が絶対起きないわけではありません。障害が発生し、サービスを利用できなくなるケースも存在します。サービスが利用できずシステムが動かない状況になってしまっても、サービスが復旧するまで待つしかありません。そのためクラウドサービスが利用できない状況でも、業務を継続できる仕組みを整える必要があります。
ハイブリッドクラウド
以下ではハイブリッドクラウドの概要や、メリット・デメリットを紹介します。
自社のオンプレミスと、社外のクラウドサービスを組み合わせて利用する
「ハイブリッドクラウド」とは、オンプレミスとクラウド両方を組み合わせて利用する形態です。
例えば、自社内でデータを保有・管理する社内システムはオンプレミス、不特定多数の人が利用するシステムをクラウド、と分けて利用するケースです。または、自社内の機器障害に備えて、バックアップをオンプレミスだけでなくクラウドにも保存しておくケースもあります。
利用するすべてのシステムをオンプレミス、またはクラウドのどちらかで運用するのではなく、両方を併用する形態がハイブリッドクラウドです。
メリット
ハイブリッドクラウドのメリットは、以下の点が挙げられます。
- 要件に応じてオンプレミスとクラウド両方を利用できる
- リスクを分散できる
- コストダウンが期待できる
・要件に応じてオンプレミスとクラウド両方を利用できる
ハイブリッドクラウドのメリットは、オンプレミスとクラウド両方のメリットが得られることです。例えば、機密データを管理するデータベースはオンプレミス、柔軟にリソース変更が必要なWebサーバーやアプリケーションサーバーはクラウド、というケースです。この場合、セキュリティを高めつつ柔軟にリソースを変更できるシステムが構築できます。
・リスクを分散できる
オンプレミス、クラウドそれぞれを利用すればリスクの分散が可能です。データを分散して物理的に異なる場所で保存することで、障害や災害が発生した際にスピーディーな復旧が見込めます。また、アクセス過多によるサーバーの負荷も分散できます。
・コストダウンが期待できる
ハイブリッドクラウドを上手に利用すれば、コストダウンが望めます。例えば、クラウドのストレージは格納するデータ量によってコストがかかりますが、機密情報やデータ量が多いものについてはオンプレミスに配置することでコストを抑えられます。
デメリット
ハイブリッドクラウドのデメリットは、以下の点が挙げられます。
- クラウドで運用する部分はカスタマイズ性が比較的低い
- コスト計算が難しい
・クラウドで運用する部分はカスタマイズ性が比較的低い
クラウドを利用して運用するシステムでは、カスタマイズ性が低くなります。そのため、独自システムはオンプレミスで運用するなど仕様に応じて構築することが大切です。
・コスト計算が難しい
次に、コスト計算が難しい点が挙げられます。運用方法を間違ってしまうと利用状況によって日々の運用コストが大きく変わり、計算が難しくなってしまうため注意が必要です。
例えば、頻繁に利用しリソースも多く消費するシステムはオンプレミス、逆に利用頻度が少ない、もしくは一定のリソースを必要とするものはクラウドに配置すると、コスト計算が楽になります。
マルチクラウドとハイブリッドクラウドの違い
マルチクラウドとは
ハイブリッドクラウドがオンプレミスとクラウド両方を利用するのに対し、マルチクラウドとは、事業者が異なる複数のクラウドサービスを利用することをいいます。例えば、AWSとMicrosoft Azureの両方を併用して利用する構成です。
マルチクラウド構成のメリットは、特定のクラウドサービスに依存することがなく、リスク分散が行える点です。ひとつのクラウドサービスだけを利用していた場合、障害が発生すると復旧するまでシステムが利用できなくなります。マルチクラウドでシステムを分散しておくと、障害の影響を抑えることができます。
ただし、クラウドサービスによって運用方法が異なるため、運用が複雑になるという点には注意が必要です。それぞれのクラウドサービスに精通した担当者を配備しておく、などの対応を行うとよいでしょう。
クラウドサービスによって特徴がある
マルチクラウドを構成する場合は、クラウドサービスの特長を理解しておくことが大切です。ここでは、代表的なクラウドサービスの特徴を解説します。
- AWS(Amazon Web Service)
2023年時点、世界で最も高いシェアを誇るクラウドサービスです。コンテンツ配信やAI(人工知能)、データ分析など200以上の機能が利用でき、あらゆるビジネスに対応する柔軟なシステムを構築できます。 - Microsoft Azure
マイクロソフト社が提供するクラウドサービスです。WindowsやMicrosoft 365、SQLServerなどMicrosoft製品と親和性が高く、既存システムでMicrosoft製品を扱っている場合、スムーズに移行できます。 - Oracle Cloud Infrastructure(OCI)
オラクル社が提供するクラウドサービスです。オラクル社はデータベース製品やJava関連製品を手がけており、これらの製品と親和性が高いです。また、コストパフォーマンスに優れており、高スペックな環境を低価格で利用できるのも特長です。
テクバンのサーバー構築支援サービス
テクバンではオンプレミスからクラウドまで、サーバー構築支援サービスを提供しています。クラウドは3つのクラウドベンダーに対応しており、オンプレミスとあわせてハイブリッドクラウド環境を構築することも可能です。
サーバー構築支援サービスでは、要件定義を行いお客様に最適なサーバー構成、クラウドサービスをご提案し、導入から運用までサポートいたします。「ハイブリッドクラウドを実現したいが、自社にその技術がない」「どのクラウドサービスを選べばよいかわからない」などお悩みの方は、ぜひ一度ご相談ください。
テクバンのサーバー構築支援サービスの詳細については、下記からご確認ください。
OCI(Oracle Cloud Infrastructure)構築支援
Microsoft Azure構築支援
Amazon Web Services構築支援
オンプレミスサーバー構築支援
ハイブリッドクラウドは、両方のいいとこどり
最後に、オンプレミス、クラウド、ハイブリッドクラウドの特徴を表でまとめました。
オンプレミス | クラウド | ハイブリッドクラウド | |
初期コスト | × | 〇 | 〇 |
カスタマイズ | 〇 | × | 〇 |
リソースの柔軟性 | × | 〇 | 〇 |
セキュリティ | 〇 | × | 〇 |
ハイブリッドクラウドは、システムの特徴を踏まえてオンプレミス、クラウド両方を利用することでそれぞれのメリットが得られます。しかし、どういうシステムをオンプレミスで構築すべきか、またはクラウドに構築すべきか悩む人もいるでしょう。
テクバンでは、オンプレミス、クラウド問わずサーバー構築支援サービスを提供しています。マルチクラウドまで幅広く支援しておりますので、サーバー構築やシステム刷新をご検討の方は、ぜひご相談ください。
クラウドに関する記事を他にもご用意しています。ぜひ、ご参考ください。
▼オンプレミスからクラウドへ。移行する判断基準、手順は? 注意点とメリット・デメリットも解説
▼オンプレミスとクラウドの違いは? メリット、デメリットや料金を比較解説