サーバーだけでなく、クラウドなどの技術を利用してネットワーク自体も仮想化する企業が増えています。
ネットワークを仮想化すれば、柔軟性や可用性の向上、コスト削減などのメリットが得られますが、具体的な手法や運用方法がわからないという方もいるかもしれません。
そこで本記事では、ネットワークを仮想化する目的の解説に加えて、メリットやデメリット、さらにネットワーク仮想化のために用いられる手法や技術などを紹介します。
ネットワーク仮想化とは?
ネットワークの仮想化とは、本来、物理的に構成されているネットワークを論理的に構成することです。
従来型のネットワークは、ルーターやスイッチングHUB、ファイアウォール、ロードバランサーなどの物理的機器をLANケーブルや無線LANに接続して構成されます。これらの各機器のすべて、または一部をソフトウェアによって仮想的に再現して構築することが、ネットワーク仮想化です。そのネットワーク自体は「仮想ネットワーク」と呼ばれます。
また、既存の物理ネットワークを分割する際に、ルーターなどの機器の置き換えや追加ではなく、仮想的に分割して構成することも、ネットワーク仮想化です。この場合は、ひとくくりの物理的なネットワークの中に、分割された複数の仮想ネットワークが存在します。
ネットワークを仮想化するメリット
ネットワークを仮想化することで、物理ネットワークでは得られない多くのメリットも得られます。それらのメリットを解説します。
ネットワーク導入時やリプレース時のコストの大幅削減
ネットワークを仮想化すれば、構成するために物理的なネットワーク機器の購入が不要です。ネットワークの拡張時にも追加でハードウェアを購入せずにすみます。物理的ネットワークよりも導入時やリプレース時のコストを大幅に削減できるようになるのです。
運用・管理コストの削減
ネットワークを仮想化すれば、物理的ネットワークよりも管理するネットワーク機器やケーブルの数を減らせるため、機器のスペース確保やメンテナンスなど機器管理のためのコスト削減が見込めます。電力消費も減ることから、光熱費コストの削減にもつながるでしょう。
ゼロトラストネットワークによるセキュリティ向上
ネットワーク仮想化により、ゼロトラストネットワークを構築しやすくなるため、物理ネットワークよりも大幅なセキュリティ向上が見込めます。
ゼロトラストネットワークとは、「何も信用しない(ゼロトラスト)」という考えのもとで構築されるセキュリティモデルです。社内外問わず高度化、多様化しているサイバー攻撃に対応できる安全性の高い環境を保ちます。
ゼロトラストネットワークを実現するためには、ネットワークを複数のセグメントに細かく分割して構成する「マイクロセグメンテーション化」が有効です。
物理的ネットワークでマイクロセグメンテーションを実現する場合は、仮想サーバーごとに物理的なファイアウォールの設置などのハードウェア購入コストや、運用管理での大きな負担が発生します。
一方、ネットワークを仮想化すれば、ファイアウォールの設置やネットワークの構成変更はソフトウェアで実行できます。マイクロセグメンテーションを実装しやすくなり、ゼロトラストネットワークの構築によるセキュリティ向上も実現できるでしょう。
機密性の高いサーバーや顧客の個人情報を保護する上でも、ネットワークを仮想化することで高いセキュリティ性能を発揮します。
ゼロトラストネットワークについて、詳しい記事をご用意しております。
▼ゼロトラストネットワークと従来のセキュリティの違いについて解説
ネットワークの柔軟性・可用性向上
ネットワークの仮想化は、ネットワークの柔軟性や可用性の向上につながります。
例えば、物理ネットワークでは機器の仕様などで制約を受けがちです。ネットワーク構成が変更できない、または十分なシステム構築ができない、機器ごとの配線変更などの物理的な負担が生じる、変更作業に時間がかかるといった課題が生じやすいのです。
そこが仮想ネットワークなら、機器の制約を受けず物理的な作業も不要で、仮想マシンの導入やサーバーの増設時などでも、ソフトウェア上で効率的かつ迅速にネットワーク構成の変更ができるのです。
各種サービスや機能の一元的な管理が容易
ネットワークを仮想化することで、ネットワーク上の各種サービスや機能が一元管理できるようになります。
物理ネットワークの場合には、サーバーやネットワーク機器などがすべてケーブルで直接接続されているため、接続された機器ごとの管理や運用が求められます。
一方の仮想ネットワークは、インターネットを介してサーバーと接続します。機器の制御や各種サービス設定もソフトウェア上で行えるため、運用を一元管理でき、効率化や担当者の業務負担軽減にもつながるでしょう。
運用を最適化・効率化できる
すでに仮想サーバーや仮想マシンを運用している場合、ネットワークを仮想化することで運用の最適化と効率化につながります。ネットワーク構成の変更がソフトウェア上で行えるだけでなく、ネットワーク上での一括設定や自動制御などもできるからです。
また、仮想サーバーや仮想マシンを増設、変更する際に物理ネットワークのように、ネットワーク構成を変更するための配線や機器の設定変更なども不要なため、配線や設定で起きがちな人的ミスも防ぎます。
ネットワーク仮想化のデメリット(注意点)
ネットワークを仮想化することで多くのメリットが得られる一方、実はデメリットもあります。ネットワークを仮想化するデメリットや注意点を解説します。
仮想化のリソースを見極める難度が高い
ネットワークを仮想化する場合に必要な、ITリソースを適切に見極める必要があります。リソースの見極めを誤ってしまうと、ネットワーク仮想化後のパフォーマンスの低下などを引き起こす可能性があるため、注意が必要です。
ネットワーク仮想化のリソースを見極めるためには、必要なソフトウェアやネットワーク構築要素、ネットワークへアクセスする数、やり取りをするデータ量などを考慮しなければいけません。
しかし、社内に専門的な知識やスキルのある人材がいない場合、この見極めを適切に行うことは困難です。必要に応じて外部の人材やサービスの活用も検討し、適切なリソースを見極めましょう。
トラブルシューティング時の対応が複雑になりがち
仮想ネットワークはソフトウェアによる設定や制御、ネットワークの構築が行われている一方で、トラブルが発生した場合、物理ネットワークよりも原因の特定が困難になりがちです。
物理ネットワークは物理接続によって設定や構築が行われているため、トラブル発生時の原因は仮想ネットワークよりも特定しやすいからです。
仮想ネットワーク上でトラブルが発生した場合に対応できるように、障害発生時の調査手順のマニュアル化や、仮想化環境への深い理解や専門的なスキルを持つ人材の確保などの対策が必要です。
「サーバーそのものを目視」することは不可能
ネットワークを仮想化すると、物理サーバーで行っていた「サーバーそのものを目視して稼働状況を判断する」ことはできません。この目視の代わりに仮想ネットワークを管理するには、仮想環境用の運用管理ツールや、サポートソリューションの導入が必要です。
ただし、これらを導入することで、コストが増える可能性も。導入時はランニングコストも踏まえた長期的な視点で、導入するツールやサービスを選定しなければなりません。
ネットワーク仮想化実現の技術と手段
ネットワーク仮想化を実現するためには、様々な技術と手段があります。ネットワーク仮想化を実現する、代表的な技術や手段を順に解説します。
- VLAN
VLAN(Virtual LAN)とは、スイッチ内部でLANセグメントを論理的に分割する技術です。従来の物理的な接続方法とは異なる、仮想的なLANセグメントを作るために用いられます。
VLANを使うことで、ルーターやL3スイッチは不要となり、L2スイッチでブロードキャストドメインの分割が可能です。ブロードキャストドメインとは、コンピューター同士がルーターなどのルーティングの仕組みを介さず、直接通信できる範囲を指します。
ブロードキャストドメインを分割すれば、ホスト同士で通信する場合、同じブロードキャストドメインに属したホストのみが受信リクエストを受けることになるため、無駄な受信フレームの発生を抑止できます。
VLAN IDをスイッチのポートに設定すれば、ID別にブロードキャストドメインを分割することも可能です。同じVLAN IDのポートにのみ、ブロードキャストが転送されることとなり、VLAN ID別にトラフィックを分割できるため、強固なネットワークセキュリティの構築にもつながります。 - VPN
VPN(Virtual Private Network)とは、特定の利用者のみが安全に情報のやり取りができる、仮想的な専用ネットワークを設ける技術です。
安全性や信頼性の高いネットワークを構築できるため、VPNを介してアクセスすることで、社外からも社内と同レベルの高いセキュリティを担保した上で業務にあたれます。
また、物理的な専用線を用いて特定の企業や組織が占有できるネットワークを構築する方法よりも、構築までの時間やコストの削減につながります。 - SDN
SDN(Software Defined Network)とは、設定や制御、管理をソフトウェアによって行うネットワークのことです。前述のVLANやVPNもソフトウェアによるネットワーク構築技術ですが、特にSDNはデータの転送経路やデータ制御を目的としたルーティングテーブルの決定などの機能をネットワーク機器から分離し、ソフトウェア上から制御する技術を指します。
SDNを用いることで、ネットワーク制御のための情報がソフトウェアを介して遠隔操作できるようになります。各スイッチに物理的にログインする、といった物理的な作業が不要なため、多くのネットワーク機器の一元制御や、他のアプリケーションとの連携や自動化なども可能です。より柔軟かつ効率的なネットワーク運用が実現できます。 - NFV
NFV(Network Function Virtualization)とは、ルーターやスイッチ、ファイアウォールなどの機能をハードウェアではなく汎用サーバー上のソフトウェアで実現する技術です。
SDNが物理的なネットワーク機器も含めてソフトウェア上から制御するのに対して、NFVはネットワーク機器そのものも仮想化するといった違いがあります。そのためSDNとNFVを併用すれば、より高レベルな仮想ネットワークを実現できるでしょう。またサーバー上でネットワーク機器の機能を実現できるため、ハードウェアの購入やリプレイスが不要になり、コストの削減にもつながります。 - クラウド
すでに仮想化したネットワークを、クラウドベンダーが管理、提供する製品やサービスも多くリリースされています。クラウドの仮想ネットワークサービスは、ユーザーが仮想化ソフトウェアの開発や導入によるネットワークを仮想化する必要がないため、簡単にネットワークの仮想化が実現します。
またクラウドでは、Web上のコントロールパネルから幅広いネットワーク機能を一覧で確認し、簡単に管理、設定することが可能です。ユーザーが仮想ネットワークに関連するハードウェアを別途調達する必要がないため、急なリソースの増強や変更にもスピーディに対応できる他、ハードウェアの運用やメンテナンス、保守も不要です。
クラウドでネットワーク仮想化
仮想ネットワークを提供するクラウド製品を導入することで、専門的なスキルや知識も不要、運用保守の手間もなく、スピーディな仮想ネットワークの導入が実現します。これからネットワークを仮想化できるクラウド型のソリューションの導入を検討しているなら、「VMware NSX」が選択肢のひとつとなります。
「VMware NSX」はハードウェアからネットワークを切り離して仮想化するのが特徴です。ネットワークの仮想化を実現するだけでなく、「ネットワークの運用工数が多い」「ネットワークセキュリティが不安」といった課題の解決にもつながります。
テクバンでは、VMware NSXの導入を検討されているお客様向けの「VMware NSX導入支援サービス」を提供しております。ライセンス購入や要件定義、設計から構築までをトータルで支援いたします。
VMware NSX導入支援サービス
ネットワーク仮想化は適切に
ネットワークの仮想化の概要やメリット、デメリット、仮想化する技術や方法を解説しました。
ネットワークの仮想化によって運用の効率化やコスト削減など多くのメリットが得られる一方、トラブルシューティングが困難、リソースの見極めが必要などのデメリットもあります。
社内で専用スキルを持つ人材が確保できない場合、ネットワークの仮想化が実現する外部サービスやソリューションを活用するのも有効です。
ネットワークを仮想化し、柔軟かつ可用性のある、セキュリティの高いネットワーク構築を実現しましょう。
ネットワーク仮想化についてテクバンへ相談する