企業のマルチデバイス活用により、従業員が私有しているデバイスを業務に利用する「BYOD(Bring Your Own Devices)」と呼ばれる動きが広がってきました。そしてコロナ禍での企業対応のひとつにBYOD導入が急増し、働き方の柔軟性や様々なワークスタイルが求められる現在、再びBYODが注目されるようになりました。
生産性を向上させるBYODを目指すためには、BYODのメリット・デメリットを理解し、その上で効率よく導入し運用していく必要があります。本資料ではBYODのメリット・デメリットや導入方法のポイントについて解説します。
BYODを導入しようか悩んでいる方や、自社のデバイス端末活用について見直したい方は、ぜひ本資料をご参考ください。
BYODとはどんなものか?
「BYOD」とは、従業員が個人で私有しているPCやのデバイス端末を業務に利用することをいいます。
業務の生産性向上や臨機応変なワークスタイルが実現されるなどメリットは多く存在しますが、盗難や紛失による情報漏えい、セキュリティ確保などの端末管理が難しくなる一面もあります。
BYODの意味
BYODとは、「ビーワイオーディ」と読み、「Bring Your Own Devices」の略称です。従業員の私有デバイス(スマホやタブレット)を業務に使用することを指します。
例えば、従業員が私有スマホに業務用のメールアカウントを設定し、メールチェックなどの業務に使用するといったことが挙げられます。
BYODが示すデバイスの種類とは
BYODが示すデバイスの種類は様々ありますが、多くの場合、
- パソコン(ノートパソコン、デスクトップパソコン)
- スマホ
- タブレット
のことを指します。しかし、デジタルデバイス端末だけを示すだけでなく、ネットワークを介して企業情報やデータにアクセスできるデバイスが該当します。
そのため、最近ではクラウドサービスの普及により使用している企業は少なくなっているかもしれませんが、
- USBフラッシュメモリ、USBフラッシュドライブ
- SDカード
- HDD
といったデータを保存できるメディア機器も含まれます。
併せて知りたい「CYOD」
BYODと対する考え方に、「CYOD」という導入方法があります。
CYODとは「Choose Your Own Devices」の略語で、組織側で端末性能の基準を設定した上で 対象機種を絞って従業員へ提示し、その複数の候補の中から各家庭で端末を購入するという導入方法です。使用するデバイス端末を完全には指定せず、使ってもよいデバイスの候補をいくつか出すことで、従業員はその中からデバイスを選べます。
BYODとの大きな違いは、「デバイス端末を組織側が指定していること」です。事前にデバイス端末を指定すれば組織にとってはコントロールしやすくなりセキュリティ面も強化できる利点はありますが、従業員から選択の自由を奪うことになります。
自由にデバイス端末を選べるBYODに比べて、従業員の満足度を下げてしまう可能性もあります。
BYODのメリットとは?
BYODの導入を検討する際、事前にメリットを把握しておくことは重要です。
BYODにはどんなメリットがあるのでしょうか。デバイス端末を管理する組織側と、使用する従業員側でそれぞれ見ていきます。
BYOD、組織側のメリット
BYODの組織側のメリットについて、紹介します。
- 業務効率の向上とサポート工数削減
普段から使っているデバイス端末を業務に利用できるということは、デバイス端末の操作性に問題なく使いこなせるため、同じ業務でも生産性向上が期待できるでしょう。
普段スマホやタブレットに使い慣れた人でも、新しいデバイス端末を使い始める最初のうちは操作に戸惑うこともあるかと思います。そのため、普段から使い慣れたデバイス端末の使用は、生産性の向上や業務効率化につながるといえます。また従業員のデバイス端末の使用などサポートを担う情報システム部にとっても、BYOD導入は負担軽減を実現します。情シス部は、従業員のサポートからクラウドサービスの運用保守、ネットワーク構築など様々な役割を担っており、BYODを導入すれば、デバイス端末に関する問い合わせ対応の軽減を期待できます。そのため情シス部のサポート工数を削減し、他の業務に集中することが可能です。
- 情報端末に関わるコストが削減できる
BYODでは、従業員の私有するデバイス端末を利用するため、新規端末の購入といった初期費用や通信費や故障時の修理代にかかる維持費などのコストカットにつながります。従業員が多ければ、初期費用も維持費も莫大な金額になるため、こうしたコストを削減できるのはメリットといえます。
また、従業員にデバイス端末を用意するのには費用だけでなく時間もかかります。デバイスの選定、各種設定、ソフトウェアのインストールなど、一連の工程を完了させるまで時間を要しますが、BYODでは最低限の設定だけで業務を行えますので、導入のしやすさもひとつのメリットでしょう。
- 働き方の多様性に対応
BYOD導入企業では、まず社外から社内システムにアクセスできる環境を構築します。こうしたシステムによって、ワークライフバランスに応じた働き方が実現可能となります。例えば、育児や介護、自身の病気など様々な状況でフルタイム勤務や通勤が難しくなり、やむを得ず退職せねばならないこともあるでしょう。
しかしBYODを導入すれば、社外でも業務を行えるようになり、時短勤務やテレワークなど働き方の選択肢が増えます。
その結果、従業員は仕事を続けやすくなり、組織は従業員にライフスタイルによって異なる柔軟な働き方を提供できるのです。 - シャドーITの抑制
シャドーITとは、組織側が使用許可をしていない、あるいは従業員が利用していることを組織が把握できていないデバイスや外部サービスのことを指します。
他にも、「個人のスマホで業務メールを確認した」「締切に間に合わないので休日に自宅のPCで作業をした」という行為もシャドーITに含まれます。BYODを導入する前提として、しっかりとしたセキュリティ対策を講じた上で私有のデバイス端末を業務利用しますので、結果シャドーITの抑制につながります。
従業員側のメリット
次に従業員側のメリットを紹介します。
- リモートワークに最適
私有のデバイス端末を業務に使えるということは、リモートワークを可能にします。そうすれば出社する必要がなくなるため、自宅やコワーキングスペースで業務ができメリットは多いです。
ワークライフバランスに沿った働き方ができますし、今の時代、柔軟な働き方を従業員に与えられるということは組織の課題なのかもしれません。柔軟な働き方ができるというのは、従業員にとって大きなメリットといえるでしょう。
- 使い慣れた端末の選択
使い慣れたデバイス端末を業務に使用できることは、従業員にとってストレスなく業務が行えます。指定された端末がこれまでに操作したことのないメーカーのものであれば、初めのうちは操作に慣れなかったり操作方法を調べながら使ったりすることもあるのではないでしょうか。
使い慣れた端末で業務を行うことで、操作性のしやすさやモチベーションアップにつながり、その結果従業員の業務効率化も期待できます。組織にとっても従業員にとっても効果的だといえます。
- 管理のしやすさ
普段使用しているデバイス端末を仕事でも兼用することは、1台で仕事もプライベートも完結するということです。
企業によっては社員に業務用スマホを支給することもありますが、そうすると従業員は仕事用とプライベート用で2台スマホを所持することになります。持つ台数が増えるほど盗難や紛失の危険性は高まり、従業員自身で徹底した管理が必要です。そのため、組織で私有端末の社用化を実現できれば複数台持ち歩くことがなくなり、従業員にとって管理がしやすくなるのです。
BYODのデメリットとは?
一方、BYODにはメリットだけではありません。BYODのデメリットとして一番懸念されるのはセキュリティリスクについてでしょう。それは組織・従業員どちらも対策が必要です。
BYODのデメリットを組織側と従業員側でそれぞれ見ていきましょう。
組織側のデメリット
組織側のデメリットとして、以下のようなことが挙げられます。
- セキュリティ対策の難しさ
BYODで私有のデバイス端末を使用すると、データの不正取得や端末そのものへの攻撃など、情報漏えいに関する不安が生じる恐れがあります。端末の紛失・盗難に遭遇した際は、リモートから端末をロックしたり、端末内のデータを消去したりといった対策を迅速に取らねばなりません。
そのためにも、そのような対応ができるデバイス管理システムの導入を検討すべきでしょう。また、セキュリティアプリは必ず導入し、常に最新バージョンを維持しておくことが必要です。
しかし私物ゆえ、従業員が画面などの設定やアプリケーションの更新を必ずしも行っているとは限りません。企業側で端末を管理する仕組みが必要となるでしょう。 - 従業員の利用と労働を把握する必要がある
BYODの導入により、従業員は場所を問わずいつでも労働が可能になります。それは言い換えると、時間外労働も可能ということです。従業員がいつどのくらいの分量で働いているのか分からなくなり、従業員が働き過ぎてしまう可能性があります。
また、デバイス端末の利用が私用なのか業務用なのかの判別がつきにくい点もあります。例えばデバイス端末が故障したときに、修理代などの負担を組織側で負うのか従業員で負うのか、という問題が生じる恐れもあります。
そういった問題を避けるためにも、組織側でしっかりと従業員の端末利用と労働を把握し、過度な労働を強いたり修理費負担で揉めたりしないように注意しましょう。 - セキュリティやIT意識向上の教育が必要
BYODを導入する際に重要なことは、セキュリティ対策です。組織側でセキュリティシステムの構築やセキュリティサービスの導入だけでなく、従業員に「セキュリティ対策への意識を高く持ってもらうこと」「IT知識を備えてもらうこと」がさらに必要となります。
また、組織内でセキュリティルールを定め、従業員にルールの周知と徹底を行うことも重要です。
そのためには研修の実施が効果的ですが、その研修の用意にコストと時間がかかってしまうのです。組織規模が大きい場合、運用ルール徹底のためのコストも大きなものとなるでしょう。
従業員側のデメリット
従業員側のデメリットとして、以下のようなことが挙げられます。
- 紛失リスクの倍増
私有デバイス端末で業務を行うと、端末内に私用のデータと業務に関するデータの2種類が入っているため、紛失時のリスクは倍増します。例えば、顧客の個人情報や業務における機密事項などは企業にとって重要な機密情報です。サーバー内のデータにアクセスする方法であればリスクの軽減は可能ですが、端末にダウンロードしアクセスできる場合、流出して悪用される危険性が高まります。
- 端末代金などの自己負担
所持しているデバイス端末が私用と業務利用という状況になることで、通話や通信にかかる費用が倍増します。組織内で定めたBYODのルールに「費用申請」に関する項目がない場合、様々なコストを従業員が自分で負担することになってしまうのです。
また、利用の回数が増えれば、故障のリスクも高まります。精密機器の修理となるとそれなりの費用が予想されますので、維持費の負担は組織と従業員どちらにあるか、しっかりと検討することが必要です。 - 支給される手当で費用が足りない可能性も
私用目的の通信費と業務で使用した通信費を区別して、計算・支払いすることを「公私分計」といい、携帯電話キャリアがサービスとして提供しているものもあります。
しかし、それらのサービスを利用せず、組織側で事前に定めた金額を手当として支給するケースがほとんどではないでしょうか。支給金額と実際の使用金額を比較すると、過不足が生じている実態もあります。その不足分を従業員が補填し、個人の負担金額が増加するといった問題が発生しているのです。 - 従業員のプライバシー問題
デバイス端末の安全性をより高めるため、企業はデバイス端末ツールなどを使用して管理しますが、これは情報セキュリティや労働時間の把握・管理において効果を発揮します。
しかし、「端末の利用状況を監視する」「利用の範囲を制限する」といったことが行われ、従業員のプライバシーを組織に知られてしまう恐れもあります。
その一方で近年、企業は個人情報保護に関する意識は高くある傾向のため、このような心配も少なくなってきているといえるでしょう。
「シャドーIT」に対するセキュリティ対策
シャドーITのリスクは問題視されており、第2章でも少し触れましたが、BYODの導入とシャドーITがどのように関係しているのか、セキュリティ対策の面から考えていきます。
セキュリティリスクの高いシャドーITとは
先述した通り、シャドーITとは組織側が使用許可をしていない、あるいは従業員が利用していることを組織が把握できていないデバイス端末や外部サービスのことを指します。また、組織が把握していない端末を使用して業務を行う行為もシャドーITに含まれます。
BYODとの違いは、使用するデバイス端末やサービスを「組織側が認知しているかどうか」です。シャドーITの場合、利用されている端末やサービスが会社側の承認を受けていません。
なぜシャドーITが生まれるのか
では、なぜシャドーITは生まれるのでしょうか。
シャドーITが生まれるのは、従業員が業務上で許可されているデバイスやサービスに不便を感じているからだといえます。例えば、業務上ファイル共有はよく行われますが、そのための効率的な手段を組織側が整えていないと、従業員は指定されていない利便性の高いサービスを使うでしょう。
つまり、従業員が業務に利便性や効率化を求めた結果がシャドーITを生む原因になっているのです。
シャドーITを防ぐためには
シャドーITを防ぐためには、以下のような対策が効果的です。
- BYODの導入
BYODは組織側で私有デバイス端末を利用できるよう、セキュリティ対策を強化する必要があるため、それが結果シャドーITを防ぎます。
- ガイドライン設定
組織側で業務環境を整え、さらに私有デバイスや無料サービスの業務利用に対するガイドラインを作ることが有効です。
- 利用しやすいツールやサービスを導入
従業員が使用しやすいものを考慮し、かつ組織側で管理しやすいツールやサービスを検討すると良いでしょう。
- シャドーITやセキュリティリスクの教育
シャドーITの危険性を組織全体に周知して教育を行いましょう。シャドーITがなぜ危険なのか、企業にどのような損害を招いてしまうのかを、組織と従業員で常に意識しておくことが重要です。
BYODの導入成功事例
BYODを導入したことにより、業務効率化や生産性向上を実現し企業が報告されています。成功事例を参考にして、BYODの導入を検討してみましょう。
早くからBYODとリモートワークに取り組んでいたA社
A社は複合機(MFP)を中心にビジネスを展開するグローバル企業であり、かつ海外ビジネス比重が高くある一方、グローバルなIT戦略については日本が主導権を持って進めていたそうです。
国内からBYODの要望が上がっており、グローバルに活用できる新しいコミュニケーションシステムの構築、そして2009年秋に在宅勤務制度をスタートさせました。
その中で、スマホ活用で仕事を進めたいという声が上がり、BYOD導入へと踏み切りました。社内PCと同様のセキュリティ規定を設けBYODを実現し、より高度なセキュリティ体制への移行を成功させています。
働き方改革でBYODを導入したB県庁
生産性向上を目指しICT活用を積極的に行ってきたB県庁では、働き方改革に取り組むため多様な働き方を支える業務環境の構築について検討し始めました。
その中で2017年、リモートワークの導入を検討し、BYODの導入を決定しました。リモートワーク開始の案内をしたところ想定以上の応募があり、リモートワークの潜在的なニーズが大きかったようです。自宅にいながら業務確認でき、かつては県庁内に設置したPCからしかできなかったことが自分のスマホからできるようになったことは大きなメリットとなりました。
BYODの導入が働き方改革に向けた仕組みづくりと、職員の満足度を向上させたといえるでしょう。
BYOD導入で生産性向上を実現したC社
半導体素子メーカーのC社は、2010年からBYOD環境を社内に設置しました。A社同様、海外や離れた拠点にいる顧客や社員からの問い合わせにすぐに対応できない課題から、社員が私有しているスマホを使って社内ネットワークにアクセスできるように体制を整えました。このようなBYOD環境の定着後、社員アンケートを実施したところ、社員1人当たり1日に57分、生産性が向上したことが判明したのです。
BYOD環境には、アクセス制御により情報漏えいを未然に防ぐ仕組みを組み込み、高度なセキュリティ体制を実現しました。BYODの導入が従業員の業務効率化に加え、高セキュリティの確立につながりました。
広がり続けるBYODの選択
BYODはセキュリティ面での対策は必須ではあるものの、コスト削減や柔軟な働き方などのメリットのために多くの企業で導入が進んでいます。BYODを導入しなくても、シャドーITへの対策は求められ、従業員に働きやすい環境と利便性の高いデバイス端末やサービスを提供することが組織の取り組みとして必要です。
しかし、「BYODは便利だから」と勢いで進めるのではなく、メリットやデメリットを把握した上で自社の環境にマッチする形で導入を進めましょう。
従業員の満足度や生産性の向上が期待できれば、組織としての成長も期待できるため、BYODの効率的な導入を選択することは、組織にとっても従業員にとっても大きな効果をもたらします。