Power Appsで簡単に業務アプリを作成
昨今、IT人材不足や業務効率化の推進などの理由から、専門的なプログラミングスキルがほとんど不要なノーコード・ローコードと呼ばれるアプリの開発手法が注目を集めています。中でもマイクロソフト社が提供している「Microsoft Power Apps」は人気のローコードアプリ作成ツールです。Power Appsを導入して業務を自動化・効率化するアプリを作成できないか検討中の企業も多いのではないでしょうか。
そこで、Power Appsの概要や特徴、導入のメリット・デメリット、アプリ作成の仕方などを紹介します。
Power Appsとはどんなサービス?
Power Appsは、マイクロソフト社が提供するローコード開発プラットフォーム「Microsoft Power Platform」のサービスのひとつです。Power Platformには、Power Appsの他に「Power Automate」「Power BI」「Power Virtual Agents」があります。
Power Appsはローコード(コーディングがほぼ必要ない)で業務アプリ作成が行えるサービスです。内容によってはノーコード(コーディングが全く必要ない)による作成が可能です。
また、SharePointリストやDataverseというPower Platformのデータベースに接続して利用することも可能なため、必要な情報を安全に管理・保存・共有ができます。
Microsoft Power Platformの導入に関する詳しいサービス内容は以下のブログにて解説をしております。
▼【導入事例】Microsoft Power Platform|システム活用の効果とは
▼Power Platformとは? 業務改善ツールとして注目されている理由
▼Power Platform(パワープラットフォーム)の機能とメリットを解説
Power Appsの特長やできること
Power Appsの最も大きな特長は、最低限のソースコードの記述のみでアプリ作成が行える点です。従来のアプリ開発には複雑なコーディングが必要で、プログラミングスキルを持つITエンジニアでなければ難しいものでした。これがPower Appsの登場で、初めて業務アプリを作成するというITの専門知識がない方でも簡単にアプリを使った業務効率化を実現できるようになります。
Power Appsは、Microsoft 365を利用している環境であれば、同一アカウントで認証できるため、よりスムーズに導入可能です。さらにMicrosoft AzureやPower Automate、Microsoft Teamsなどのマイクロソフト社製品とも連携できるため、アプリ作成にとどまらず、システム間連携や自動化が可能な点も大きな魅力です。
Power Appsについては、以下記事でも詳しく解説しています。また、実際の導入事例について詳しく知りたい方は、事例集や資料を参考にしていただければと思います。
▼Power Appsとは? 基本情報やメリット、注意点を解説
▼Power Appsで在庫管理アプリを作成する方法は? メリットや活用ポイントも解説
Power Apps/Power Automateの活用事例6選
【Power Apps実例】管理者負担とコストを削減した進捗管理アプリ開発
Power Appsが利用できるプラン
以下のプランを利用している場合、Power Appsのライセンスを別途購入しなくとも、利用可能です。
- Microsoft 365 Business Basic
- Microsoft 365 Business Standard
- Microsoft 365 Business Premium
- Microsoft 365 E3/E5/F3
- Office 365 E1/E3/E5/F3
- Office 365 A1/A3/A5
また以下のDynamics 365のプランを利用している場合も、利用可能です。
- Dynamics 365 Sales Enterprise
- Dynamics 365 Sales Professional
- Dynamics 365 Customer Service Enterprise
- Dynamics 365 Customer Service Professional
- Dynamics 365 Business Central
- Dynamics 365 Business Central Team Members
- Dynamics 365 Field Service
- Dynamics 365 Project Operations
- Dynamics 365 Team Members
- Dynamics 365 Finance
- Dynamics 365 Supply Chain Management
- Dynamics 365 Commerce
- Dynamics 365 Human Resources
- Dynamics 365 Operations–Activity
- Dynamics 365 Intelligent Order Management
※参照元:マイクロソフト社公式サイト「Power Apps の使い方を解説! コードを書かないアプリ作成の極意とは」
一方で、これらのプランではPower Appsの一部の機能が制限されるため複雑な作り込みや、フル機能でアプリ開発をしたい場合は、Power Apps個別ライセンスを購入する必要があります。
個別ライセンスには「サブスクリプション」と「従量課金」の2プランがあります。「サブスクリプション」はユーザーごとにライセンスを付与するため、常時使う人が決まっているケースに最適です。そして「従量課金」は暦月でアプリを使用した場合のみ請求されるため、ある期間だけ集中して使用するケースに向いています。
個別ライセンスそれぞれの金額については、マイクロソフト社公式サイト内にある「Power Apps の価格」をご参照ください。
Power Appsを活用するメリット
Power Appsの活用によって得られる主なメリットを4つ解説します。
1.プログラマーでなくてもアプリ開発が可能
Power Appsのアプリ作成は、操作画面上でExcelのような関数を使ったり、Power Pointのようなパーツのドラッグ&ドロップなどを行ったりして作成します。Power Apps専用の関数もありますが、Excelで利用できる関数の大部分はPower Appsでも利用できます。さらに、他のMicrosoft製品とUIや使い勝手が似ており、Microsoft製品を普段から使っている人であれば、非ITエンジニアの方でも違和感なくすぐにアプリ作成ができるようになるでしょう。また、汎用的なアプリはマイクロソフトのブログ記事にナレッジがまとまっているため、作成時の参考になります。
マイクロソフト社公式ブログ(Power Apps)
2.業務を自動化・効率化できる
業務アプリを作成する場合、実際に業務を行う部署とアプリ開発を行う部署が別々であることがほとんどといえます。これにより作成された業務アプリがリリースされても、現場のニーズとは適合しないがためにあまり使われないというケースが見受けられました。これでは業務効率化が進まないだけではなく、アプリ作成に費やされたリソースも無駄になってしまいます。
Power Appsを活用することで、実業務を担う部署による現場のニーズを踏まえたアプリ作成が可能です。これにより、日々の業務を自動化・効率化へと導きます。
3.IT部門の負担を削減する
IT部門が社内の「何でも屋」のような存在になり、あちこちの部署からアプリ開発を頼まれ、担当社員の負担が増えている組織も多くあります。そのような場合、簡単な業務アプリであっても作成に時間を要することや、優先度が低い要件であれば作成を断るというケースが頻発します。
Power Appsを活用することで、非IT部門でもアプリ作成ができるようになれば、IT部門はこれまでアプリ開発に追われた時間を他のコア業務に注力できるようになるでしょう。また、今まで優先度が低く実装されなかった業務アプリも、活用する部署で作成できるようになるため、会社全体の業務適正化・効率化につながります。
4.短期間かつローコストでアプリ開発が可能
従来のアプリ開発においては、オンプレミスにせよクラウドにせよアプリの開発環境を構築する必要がありました。アプリの開発環境構築には、サーバーの調達・レンタル費用やサーバーで利用するソフトウェアの準備など、金銭的・時間的コストがかかります。
Power Appsはクラウドツールのため、ライセンスを契約すれば時間をかけず利用可能で、自前でアプリの開発環境を構築するよりもコストがかからないケースが大半です。テストケースを作成して自動でテストが実行できるTest Studioという機能もあり、テストを含めて開発を外部に委託する必要などもありません。このため、開発を自社内のみで完結できるため、より短期間かつローコストでアプリ作成に取りかかれます。
5.様々なデータ・サービスと連携可能
現在、Power Appsには600を超えるサービス用のコネクタが用意されています。これによりPower BIやSharePoint、Excelなどの既存のMicrosoft 365サービス内の既存データの参照やインポート・エクスポートはもちろんのことGoogleスプレッドシート、Gmailなどとも連携ができます。これによりアプリを簡単に作成するだけでなく、自動でレポートを作成してグラフをアプリに表示させたり、アプリからGmailの送信を自動化したりすることで、さらなる業務の効率化に導きます。
Power Appsを活用するデメリット
Power Appsには多くのメリットがある一方、活用時に注意すべきデメリットもあります。取り扱う前に確認しておくべき注意点を解説します。
1.アプリの自由度が低下し、セキュリティ対策をマイクロソフト社に依存してしまう
ローコード開発は最低限のコーディングのみでアプリ作成が可能ですが、デザインの自由度は従来のHTMLやCSSなどのプログラミング言語を用いた開発よりも低くなります。高度なアプリ動作や連携などを行う場合には、プログラミングの知識が必要になる点には注意が必要です。また、プラットフォームによって開発環境の機能が制限される点も、プログラミング開発より自由度が低くなりやすい原因になります。
さらに、インフラ環境やセキュリティ機能もマイクロソフト社に依存することになります。マイクロソフト社は耐障害性の高いインフラ環境と高度なセキュリティ機能を提供しているものの、何らかの理由でインフラ面やセキュリティ面に不足を感じた場合があってもユーザー側ではコントロールできない、という点は事前に認識しておきましょう。
2.アプリの管理がブラックボックス化しやすい
Power Appsの利用で部署ごとにアプリ作成が可能になる点は大きなメリットですが、管理がずさんになりやすい点には注意が必要です。アプリの管理が適切になされないと、アプリ作成者の退職や長期休暇などによってアプリの修正が行える人材がいなくなり、利用されなくなったアプリがそのまま放置される事態に陥る可能性があります。
Power AppsのメリットでIT部門の負担軽減の可能性を解説しましたが、アプリの管理が不十分だとかえってIT部門の管理負担を増やしかねません。Power Appsを利用する際には、アプリの作成方法や管理方法などを事前に整備しておく必要があります。
3.社外の人も含めた大規模な活用には向かない
Power Appsは、ゲストユーザーとして外部アカウントを追加することは可能ですが、Power Appsのライセンスが必要となります。Webで一般に公開することもできませんので、社外メンバーが参加する業務などへの活用にはあまり向いていないともいえます。アプリ作成による業務効率化を実現する際は、社内で完結する業務かどうかも踏まえた検討が必要です。
Power Apps でのアプリ作成の仕方
Power Appsの利用には、Power Appsへのアクセスとサインインが必要です。既にMicrosoft 365などのアカウントを持っていれば、同じアカウント情報でサインインができます。新規にPower Appsにサインインする際、Gmailなどのフリーメールではサインインできない場合があるため、注意しましょう。
Power Appsへのサインイン後はすぐにアプリ作成を開始できます。Power Appsで作成できるアプリは3種類あり、「キャンバスアプリ」「モデル駆動型アプリ」「ポータル」から選択します。導入当初にまず利用するのはキャンバスアプリが多いでしょう。キャンバスアプリでは、テンプレートの利用やExcelなどのMicrosoft製品からデータソースを取り込んでアプリを作成できます。
例えば、Excelで作成した管理表をテーブル化し、Power Appsへ取り込めば、数分で管理表をWebブラウザ上で編集できるアプリが自動作成されます。その後はPower Apps内のキャンバスアプリを使って、任意の画面表示や入力項目、入力内容の設定などが行え、業務環境に合わせたアプリ作成ができます。
Power Appsには「コンポーネント」機能があり、複数のアプリを作成する場合に共通で使用するパーツを管理することができます。例えば、社内で利用する全アプリのヘッダー部分を共通のデザインなど同じ仕様にすれば統一感を出せますが、変更があった場合、すべてのヘッダーに同じ修正を行う手間が発生します。コンポーネントで管理しておけば、管理画面で修正するだけで全アプリのヘッダーを同時に更新できます。
また、それらのコンポーネントをさらに「ソリューション」機能で1つのまとまりにしてパッケージ化することが可能です。ソリューションで管理しておけば、バージョンアップを一括でしたり、編集の権限を設定できたりします。
コンポーネントやソリューションの機能を使えば、アプリを適切に管理でき、アプリの一部分を再利用するなど作業時間の効率化につながります。
コンポーネントについては、詳しくはこちらから。
ソリューションについては、詳しくはこちらから。
Power Appsの活用の留意点
Power Appsを上手に活用するための3つのポイントを解説します。
1.機能要件に合わせてPower Appsを使うか検討する
Power Appsは非常に優れたアプリ作成ツールですが、複雑な機能を組み込みたい場合には、Power Appsでは実現できない可能性があります。実現しても、別途プログラミング改修が必要になる場合もあります。必要な機能に合わせてPower Appsを活用すべきか検討しましょう。Power Appsが適さないアプリ開発はIT部門への開発依頼や外部の支援サービスの利用がおすすめです。
2.インシデント発生時の対応を整理しておく
マイクロソフト社は耐障害性の高いインフラ環境と高度なセキュリティ機能を提供していますが、事前にマイクロソフト社のSLA(サービス品質保証)の確認や、インシデント発生時の態勢を整えるなど、万一に備えておくべきです。根本の対処はマイクロソフト社に依存してしまいますが、インシデント発生時の報告ルートや関連ステークホルダーの整理などは行っておきましょう。
また、Power Appsの利用時には、データをクラウド上に保存することになります。顧客情報などの機密性の高い情報をクラウド上に保存すると、重大な漏えい事故につながるリスクがあります。事前にセキュリティポリシーと照らし合わせ、Power Appsで利用可能なデータの範囲を決めておくようにしましょう。
3.アプリの管理ルールを整備する
作成したアプリの管理がブラックボックス化しないよう、アプリの管理ルールを整備しておきましょう。実質的なアプリ管理は各部署や現場ごとになると思いますが、バラバラな管理方法では管理コストが増大する可能性があります。できる限り社内で統一した管理方法にするのが効果的です。
また、管理ルールの整備後は、管理者が不在になる場合でも管理ルールに沿って適切に引き継ぎできるようにしましょう。ルールの順守が定着するまでは、各部署や現場ごとの管理担当者を通して研修などを行うことをおすすめします。
Power Appsで業務を効率化
Power Appsでできることとやさまざまなメリット、デメリットを解説してきました。
Power Appsを利用すれば、プログラミングのスキルがなくても簡単にアプリ作成が行えます。また、AzureやPower Automateなどと連携すれば、高度なシステム連携や自動化も実現します。
Power Appsでは、Excelと同じような関数やPower Pointのプレゼンテーション作成のようなパーツの操作でアプリ作成を行います。非IT部門でも、実際にアプリを使用する部署で作成できるため、業務の自動化・効率化を図れるでしょう。IT部門の管理コスト削減やアプリ開発の短期間化・低コスト化の面でも大きなメリットがあります。
しかし、アプリの開発環境やインフラ環境、セキュリティ機能がマイクロソフト社に依存する点、開発アプリがブラックボックス化するリスクがある点には注意が必要です。特に、複雑な機能要件のアプリ開発は、単純なPower Apps上での開発では対応できない場合があります。
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※本記事の内容は2022年7月時点のものです。Microsoft製品の仕様や利用環境は変更する場合があります。